アメリカ本社の法務担当者を引きずりだし問い詰める/ アメリカ大企業との契約交渉

いくつか過去の記事でも書いているのですが、自社に一方的に有利な条件だけ記載して取引先を搾取の対象としか見做していない某アメリカ大企業と契約書の内容をめぐってやり取りしております。

もうすでにビジネスは動いているのですが、契約書が一向に結べません。

半年以上たっています。日本企業は契約書なくて取引を始めてしまうけれど、欧米の企業はちゃんと事前に契約書を締結して権利義務関係をはっきりさせてから取引を始めるというイメージがあるかもしれませんが、そんなことは全くありません。

欧米の企業とは契約書の内容をめぐって数か月単位で交渉するのは普通ですので、契約書の内容を詰めている間に実際の取引が動いてしまうなんてざらです。

むしろこちらがデフォルトです。契約締結まで取引を待っていたら、世界経済はそれこそ止まってしまいます。

会社によってカルチャーはありますが、僕の会社は法務部員が直接相手方の会社の担当者と顔を合わせて契約書の文言をめぐって交渉するのはレアケースで、だいたい事業部の人にドラフト・修正した契約書を渡してこれで先方に送ってくださいというパターンが多いです。

ですが、当社側のあまりに多い契約書の修正を見て、埒があかないから打ち合わせしてほしいといわれ、僕も会議に出席することになりました。

アメリカ企業の出席者は日本支社の日本語ペラペラのアメリカ人と日本人です。

とても時給が高そうなお方で、丁寧さの中にも相手を威圧する強さがあり、やり取りしたくないなあという感触を持ちました。

江戸時代の列強に強制された不平等条約のような条件を突き付けてきたのは相手のアメリカ企業なので、公平性・論理性で見ると当社に分があります。

ただ、理屈で正当性を主張しても、本当に受け入れてくれないんです外資企業は。

何度も何度も修正し修正されを繰り返し、それでもだんだんとこちらの陣地を広げていきました。

一部のビジネス条件についてはこちらも全く引かなかったので、ついには相手方を譲歩させることに成功したのですが、どうしてもお互い妥結できない条件がありました。

契約書の交渉とか、法的で論理的なやり取りを想像されるかもしれませんが、そんなケースは稀です。わが社はこうしたいああしたいという「I want」のエゴのやり取りが実は多かったりします。

こういう実際の契約交渉では学者や弁護士が著した世に出ている本なんて微塵も役に立ちません。

話していても同じやりとりの繰り返しで、どうしてもこれは受け入れられない、アメリカ本社のリーガル担当がOKと言わない、グローバルなことを日本だけの意向で決定できない、会社方針で変更できない、とあまりにしつこいので、だったら本社リーガルを出してくれと主張し、アメリカ本社法務部のリーガル担当者と電話会議をする運びとなりました。

本社リーガル担当に修正要請すると、「かつて他の取引先との間でこの条件を変えたことがない」「この条件を受け入れられないならディールブレイクになる」「会社方針としてどうしても変えられない」とオウム返しのように言われます。何の法理論もないでしょ。楽な仕事です。

アメリカ大企業の法務部は、全員弁護士で、通常の日本企業の法務部よりも権限が強いです。

日本企業の場合は、法務部は何の権限もありません。

法務部がこの条件は受け入れられないといっても、取引主体は事業部ですので、事業部がこの条件を飲むといえば当然法務部より事業部の意思が優先します(なので、法務部が事業部に従属する日本企業では、面倒くさい法務担当者よりも事業部の人間を説得することで契約締結に至りやすいです)。

これがアメリカ大企業だと、契約書の内容を変更する権限は事業部にはなく、完全に法務部管轄で法務部の権限になるパターンが多いです。

契約書の内容を譲歩すればそれは自分の評価が下がることにつながるわけですから、本当に手強いです。

しかしながら当社側も引き下がるわけにはいきません。

当初僕はもう何回も同じことを主張して全て受け入れられませんでしたので、もう受け入れでいいんじゃないかと思っていたのですが、自分よりも若い事業部の担当者が優秀な人で契約書の内容もしっかりと吟味してくれ、ビジネス部門としてこの条件は受けるわけにはいかないと意思表示してくれたので、怠慢に触れた僕の心も呼び戻されました。

やっぱり仕事は人間関係ですね。尊敬できたり信頼関係のある事業部の担当者だと、こちらも頑張って仕事しようと思わされます。

そんなこんなで戦線は膠着し動きませんでしたので、もう少しバトルは続いていきそうです。

なお会議は当然通訳さん付きです