「ワイド・モート」(経済的な堀)とは何か?「千年投資の公理 売られ過ぎの優良企業を買う」

ウォーレン・バフェットは「ワイド・モート」(経済的な堀)のある銘柄に投資することを好みます。

高い経済的な堀のある企業は、競合他社から自己を守る優位性を持っており、将来にわたって業績を伸ばし企業価値が上昇していく蓋然性が高いです。

しかし、よく耳にする言葉である「ワイド・モート」とは具体的にどういう状態のことをいうのか、どうやればワイド・モートのある銘柄を探すことができるのか、について考えを巡らすと、とても難しい問題であるように思います。

「千年投資の公理」(パット・ドーシー著、鈴木一之監訳、井田京子訳)は、まさにこのワイド・モートとは何ぞやについて書かれた名著です。

5年くらい前に当時愛読していたブログに紹介されていたのがきっかけで購入し、久しぶりに読み返してみました。

ワイド・モートを導く無形資産、乗り換えコスト、ネットワーク効果、コスト優位性、規模の優位性などといった具体的な効果を説明してくれます。

ただ、記載としては薄いと感じないこともないです。

マイケル・ポーターの競争戦略の本みたいに細かく解説するというよりも、一通りさらっと概要を流すというスタイルなので、読むとなんとなくわかった気にはなりますが、この本を読んだ後に再現性を持って自分でワイド・モートかどうかを判断できるようになるかといえばセンスのある一部の人を除けばほとんどの人はできないと思います。結局最後は自分の頭で考えて考えて考え抜くしかありません。

この本は、とにかくたくさんのアメリカ企業が具体例として話の中で出てきます。

当時はアメリカ企業についての知識が浅かったので知らない固有名詞が頭に入るのが苦痛でしたが、ある程度企業名が頭に入ると、これ知ってるよという例が多く、逆に読みやすいです。

それも、コカ・コーラやP&Gのような有名な優良大企業だけではなく、ニッチ市場で大きな競争優位性を持つ企業を多数紹介してくれるので、それがとても勉強になります。

著者のお気に入りは、ゴミ処理業者や砂利メーカーです。とても地味ですがワイド・モートがあります。

「世の中に必要だが家の近所にはいらない」これらの企業は、新たな行政の認可を受けるハードルが高く、地域の認可が堀の集合体を構成しています。「ステリサイクル」とか具体例です。

また今読み返してなんとも胸が痛いのが、クラフト・ハインツがプライベートブランドに脅かされる高い堀のない企業として紹介されていることです。

バフェット銘柄であるクラフト・ハインツの業績の下落と株価の暴落は現在進行形で続いていますが、この本の著者はクラフト・ハインツは差別化できる商品がなく、ブランドで自社を守ることのできない企業と見做していることに今更ながら鋭さを感じます。

そして現在株価が絶不調の配当王スリーエムについては、何千もの特許群を用いて何千もの商品を生産しており、経済的な堀があることに肯定的な評価をしています。

アメリカ株投資をしている人はシーゲル教授の「株式投資の未来」を入り口に投資を始める人が多いと思います。

シーゲル本を読むと、素材セクターはパフォーマンスが悪いしディフェンシブではないしと敬遠しがちですが、この本によると、「素材セクター」というだけで投資家がこのセクターに属する銘柄を全て同じように扱い、不景気になれば銘柄問わず全てが売られるが、そのような時に逆にワイド・モートのある銘柄に着目すると本当の宝物を当てられると指摘します。いろんな考え方があって楽しいですね。

投資先を選ぶときに大切な観点として、

  • 将来の予想キャッシュフローが実現する可能性(リスク)
  • そのキャッシュフローが将来成長するか(成長性)
  • 事業継続のために必要な投資(ROC)
  • 経済的な堀の寿命

といった要素を考慮すると、良い投資先が選別できるとします。

結局は、しっかりとキャッシュフローをもたらしてくれる企業で、将来成長性が見込め、資本効率性がよく、生み出すキャッシュをずっと競合他社から守ってくれる競争的優位性のある企業が割安になった時に投資すべきとなります。

これら要素が当てはまる企業を考えると、暴利的な水準で潤沢なキャッシュを稼ぎ、成長性も高く、売り上げを伸ばすための大きな新規投資も不要で、市場への参入障壁が著しく高いということで、クレジットカード市場を支配するVISAとかマスターカードが頭に浮かびます。

いい加減意地張ってないで買ってしまおうか。

逆にワイド・モートになると誤解されている4つの罠は、「素晴らしい製品」「大きな市場シェア」「効率的な業務執行」「優れた経営者」ということです。

「1冊の年次報告書のほうが、FRB議長のスピーチ10回分よりずっと価値がある」という言葉に感化されてアニュアルレポートを読む鬼と化すことができたらいいな(仮定法)と思いました。

パン・ローリング社の投資本は優れた本が多いですが、分厚く骨太で読破するのが大変ですが、本書はページ数が250ページほどで細かな計算式も出てきませんので、表面上は読みやすい部類に入ります。

ただ、行間を読むと相当に高度で役に立つことが書かれています(そう感じます)ので、行間を読める人には相当なボリュームに相当する本であり、投資初心者が読んで何か開眼するというよりも、自分で良い投資先を選別できる能力のある人がこれを読んでますますハイレベルな投資家になれるような、そんな種類の本ではないかと思料します。

法学部出身の人しかわからない例えで大変恐縮ですが、憲法のテキストでいうと「芦部憲法」に近い存在でしょう。

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