国際法務のが国内法務よりも実は仕事がラク

どの会社でも「グローバル人材」が足りず重宝されていることと思います。

英語ができて国際案件が処理できると、社内での評価や出世もはやいですし、国際案件ができると転職時の年収も100万~300万UPとかする場合もあります。

僕が所属する法務部門でも同様です。

法務の転職だと、一般的には「国際法務」ができる人材だと需要が高く、高年収の待遇で企業側も迎えてくれることが多いです。

そもそも「国際法務」の定義なんてないのですが、平たくいうと「国内案件以外の法務案件」になるのでしょうか。外国企業との英文契約書のドラフト・レビューができるとか、海外の会社と外国語で直接の契約交渉ができるとか、海外会社のM&A案件ができるとか、海外での訴訟案件経験があるとか、そういう経験になります。

一定規模以上の会社だと法務部も専門性によってチームやグループに分かれることが多く、会社によっては、英語案件だと国際法務グループなどと別チームになることもあります。

そして、法務の中でもかっこいい英語案件を扱うということで、国際法務グループの部内での「格」は高く、所属する人間もちょっとした「おれ格上の仕事やっている」感を抱いたりします。

ただ、海外に進出することが一般化している今の時代に国内と海外で分けるのもナンセンスなので、そのような英語案件かどうかで一律に分けることを避ける会社もあります。

英語ができなかったり苦手な人には、英語を扱うというだけで国際法務の敷居は高く、日本語でさえ困難な契約書を英語で読むなんて無理ムリと構えてしまう人もいます。

しかし、国内法務も国際法務も両方経験したことがある身としては、国際法務って、国内法務よりラクなんじゃないかと思うことがあるので、それについて少し書いていきたいと思います。

なお、最低ラインとして英語アレルギーがないというのはどうしても必須となります。

国際法務がラクだと感じる1番の理由は、自分で具体的な法律を読み込んだり解釈する必要がないことです。

国内案件だと、新しい事業を始めたり、また事業でトラブルが起きた場合に該当しそうな法律を読み込んで、わからなかったら会社の図書スペースの本を読んで調べたりGoogle先生に聞いたりと、1つの個別法や問題を巡って深く思考し考えることが求められます。

例えば、消費者の情報をステルスに収集してしまうのだが、この収集する情報では個人は特定できないから個人情報保護法上問題ないだろうかとか、キャンペーン施策でおまけを配りたいのだが、景表法上違法性はないかとか、地味に頭に汗をかいて報われない案件です。

こういうのって、だいたい全部グレーなケースで正解がないから考えれば考えるほど終わりのない仕事になってしまうんです。

一方で国際法務だと、法令を読み込むことは滅多なことではありません。

なぜなら、海外のグループ会社の法務や海外弁護士に丸投げしてしまうことが多いからです。

そのため、この場合は事業部からきた案件を「こういう場合はどうなるの?いついつまでに回答お願いします」とそのまま横に流す調整役のような役割を果たすことになります。

そして返ってきた回答を、日本語に翻訳してさも自分で回答を導き出したかのようにもっともらしく事業部に回答します。

例えば日本の個人情報保護法にどんなに詳しくても、アメリカの個人情報保護法は日本とは別個の制度なので、詳細はアメリカ人に聞くしか方法がないのです。

つまるところ、海外法令の調査や解釈なんて日本に住む日本人がやるのは相当にハードルが高く、現地で法務経験があるような特別な場合を除けば、海外グループ会社の弁護士や外部弁護士に投げないと対応しようがありません。

また、例えばアメリカで訴訟が発生したとして、日本にいる人間がアメリカの訴訟に対応するなんて不可能です。法制度も全然違うし訴訟実務に関するノウハウもありません。

したがって、この場合も海外子会社や海外弁護士事務所に丸投げして、報告だけ都度つど上げてもらって、報告がくるたびにそれをもっともらしく翻訳して要約して関係部署と共有します。

これもまた日本と海外との調整役の役割を果たします。

その意味だと、グローバルに展開し各国にグループ会社がある会社の方が国際法務は負荷が少ないという考えも成り立つように思います。

契約書だと、自企業が締結主体になるのでこればかりは自分で手を動かすしか方法はありませんのでラクはできませんが、たまに自分の企業のグループ会社全体と相手企業のグループ会社全体というグループ間契約を締結する場面があり、たいていは海外の会社が含まれると英語になるのですが、これも自分がラクをしようと思ったら、英語だからお願いと海外グループ会社の法務にレビューを任せてしまえばよいのです。

このように日本企業の国際法務は、具体的な法律の専門知識やノウハウというよりも、優れた調整能力やコミュ力が求められることが多いと感じます。