サラリーマンの悲哀〜最も敬愛していた上司が本社を去る

サラリーマンをしているとどうしても移動は避けられません。2年や3年で突然門外漢の部署にローテーションをさせられるというのは珍しくありません。有名なIT企業では、1年の間に必ず部署の10%の人間を異なる部署に異動させ交代させるというルールを設けている会社もあります。

部署に絶対必要な人や、この人がいないと仕事が回らなくなるという人が突然去っていきますが、それでも異動後は何事もなかったかのように仕事は回りますし、異動の当事者となった当人は違う部署でしばらくすれば普通に仕事を回せるようになります。こういうのを見ると、ほとんどの仕事というのは結局誰がやっても対応できるものなのだなと思い知らされます。サラリーマンほどコモディティな属性なものはないものかもしれません。

僕はこれまで直属の上司として7人の上司と仕事をしてきました。よく仕事をしないで座っているだけの上司とか、使えない上司の苦情が世間では言われていますが、僕のこれまでの上司は、人間的な相性は別にして、幸か不幸かわかりませんが皆仕事はすごくできる人たちでした。こういう人たちがいれば日本企業もまだまだ大丈夫で全く悲観する必要はないと思わせてくれる頼もしい人たちです。そのため、仕事については常に一定以上のクオリティのものを出さねばとプレッシャーを感じながらストレスでお腹を痛くして業務をしていたときもありました。

特に1番敬愛していたのが、初めに就職した企業の最初の上司です。関西の国立大学出身の方で、僕が当時配属された法務部門で長らく仕事をしているとういベテランの方でした。自分の採用面接のときの面接官でもありました。人事部のリーダークラスの人とこの上司が面接官だったのですが、人事部の人が、東大法学部出身なのに官僚になって国に仕えずにうちの企業に就職してしまっていいのですか、親御さんは残念がりませんか、これまでの人生であなたが行った1番ばかでおちゃめなことは何ですか、果てには彼女はいますかといった質問をされる中で、この上司は僕の回答を優しくフォローしてくれた人だったので、初めから好感度も相当に高かったです。

その方は仕事が大好きな人で、仕事に妥協せず、本当によく部下を見ていて、大らかで部下を包み込むような包容力があり、部下が常に話しかけやすい雰囲気をつくってくれる人でした。僕が女性だったら、むしろ喜んで抱かれにいったと思います(笑)。

仕事でチェックや確認を求めると、1回目では必ずOKを出さない人で、異なる視点に気付かせてくれたり親身にアドバイスをくれたりと、本当に信頼できる人でした。もし今でもこの方の下で仕事をしていたら、こんなにサラリーマンを辞めたいセミリタイアしたいと思っておらず、会社と日本経済の発展のために尽力していたと思います(笑)。

深夜までこの上司と仕事するのは本当に楽しく、この人にずっと仕えたいずっと育ててもらいたいと思っていました。かつてドイツ軍でエルヴィン・ロンメル元帥に仕えたハンス・シュパイデル中将は、「軍人にとって最大の喜びとは、自分より優れた指揮官に仕えることだ」と述べましたが、自分のサラリーマン人生で人に仕える最大の喜びを感じていた時代です。1番初めが1番よかったという、ある意味不幸なことかもしれません。

この上司は、もともとの仕事量が多かったという理由もあるのですが、自分から他部署に顔を出したり油を売ったりして、自分から新しい仕事を引き受けてしまう面も多々あり、帰りはいつも終電後のタクシーでした。また、たばことお酒とコーヒーも好きな方でした。

僕が退職の決意を会社に伝えたときも、すぐに連絡をくれ、今の会社に移ってからもたまに一緒にお肉料理を食べる付き合いがありましたが、年月の流れに応じて疎遠になっています。ただ、サラリーマン人生を積み上げれば積み上げるほど、この上司に対する感謝と敬愛の念は大きくなっています。

そんな敬愛していた上司が、全くフィールドの異なる子会社に異動させられたということを昔の同僚から聞きました。出向か転籍かはわかりませんが、年齢を考えるともう本社にポストがなく一方通行なものなのでしょう。サラリーマンとしては、これ以上の出世が絶たれた可能性が大きいことを意味します。

昔の同僚からいろいろと話を聞きましたが、異動の理由を邪推すると、この上司とその上の部長(この方も僕のかつての上司で敬愛していました)との相性が悪いということでした。確かに人間的な相性悪そうでした。加えて、どの日本企業もそうなのかもしれませんが、国際案件を取り扱った経験がある人がやたら重宝されて出世する傾向があります。部長は、国際案件を多数扱った国際派ですが、僕の上司はどちらかというとドロドロしたドメスティック案件を中心に扱っていた方でした。国内案件でも難しい案件は難しいのですがね。

あれだけ仕事ができて人間的な魅力がある人でも子会社に行かされてしまうことにもののあはれを感じます。

ただ、たとえ給料が下がっても仕事がなく暇でストレスのない環境ならば、仕事で何かを成し遂げたいという青き日に抱いていた蒼い炎が潰えている自分なら喜んで子会社に行ってしまいそうです。

左遷されて可哀想とかいう思いは少ないです。出世することが命というタイプでは全然なく、職業に貴賎なしと言いますがどんな仕事でも楽しくやれてしまうタイプの人で、つまらなかったら自分で環境を変えてしまったりと、どんな職場でも自分から人を巻き込んでわいわい楽しく仕事ができてしまう人なので、新天地でも部下から敬愛されることでしょう。

もしそのような環境でなければ、僕が救いたいと思います。

今の会社の法務部長として彼を招聘できる圧倒的な権力が自分に欲しいです。

 

 



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