2008年のリーマンショック以来、FRBによる量的緩和政策によりドルがじゃぶじゃぶと刷られ、金利も歴史的な低水準で推移してきました。
これらの政策は、企業にとっては著しい低金利で資金を借りれることを可能にしますので、この10年で多くのアメリカ企業は借入債務を増加させています。
これまでは低金利でかつ経済が拡大していたので問題は表面化しませんでしたが、金利が上昇し景気も低迷するという逆回転の循環になっていくと、それに応じて債務比率の高い企業のデフォルト懸念も上昇していきます。
直近ではGEの事例ですね。リーマンショック前の2007年には純利益2兆円(だったような)をたたき出したかつての時価総額No.1企業が今日のような状態になるのを誰が予想できたでしょうか。
高配当株を好む投資家に人気な銘柄の1つに、ベライゾンと並ぶアメリカの通信大手会社AT&Tがあります。
現在の配当利回りは驚異の6.54%まで上昇しています。
ただ、単純に配当利回りが高いからお得な株というわけではもちろんありません。配当利回りが高いということは、それだけ市場からリスクがある銘柄と見做されているということです。
AT&Tのリスクとは、負債が多ぎて財務状態が悪化し、デフォルト懸念が生じかねないということです。
現在アメリカで最も借金まみれの企業がAT&T社です。
2018年9月30日現在でその額なんと、1830億ドル(約20兆円)となります。
もはや国家予算並みの金額です。
こんなにも巨大な債務を抱えている原因は、過去の2つの巨額メディア企業の買収です。
ディレクTVとタイム・ワーナー買収案件ですね。
AT&Tは、この2社の買収資金のほとんどを借金でまかなっています。
ディレクTV買収が485億ドル(約5兆円)、タイムワーナーが854億ドル(約9兆円)と、超大型の買収金額でした。
今後金利が上昇すれば、現在負っている負債に係る金利負担だけでも莫大な金額となります。
非常に単純な計算ですが、年3%の金利がかかると仮定すると、金利だけで年間6000億円ものキャッシュアウトが生じることになります。
AT&Tは現在、社債市場での投資適格はBBB(トリプルB)のレーティングとなっています。
BBBの格付けは、ジャンク債の1つ上の格付けに過ぎず、事業環境や市場変動によって債務返済能力が悪化する可能性が高いとされているレベルです。
これ以上レーティングが下がるとジャンク債と同格となり、債券市場から資金を獲得しようとしてもさらに金利コストが高まり進退窮まります。
また、財務的余裕がなくなると、事業での失敗をカバーできる余地もなくなります。
トリプルBの格付けがジャンク債の格付けにダウングレードされ、景気低迷により収益圧迫、さらに買収先企業もまったく想定に満たない業績しか上げなくてリファイナンスコストはますます増加していき財務悪化が止まらないというのがよろしくないシナリオです。
AT&Tは29日に、2019年は莫大な負債を低減していく計画を実施すると発表しました。ビデオストリーミング会社のHuluの持ち株の売却や、コア事業ではない資産の売却が選択肢に入ることになります。
2019年末までに180億ドル~200億ドル(約2兆~2.2兆円)の負債を返済する予定ですが、うち80億ドル分を、資産売却によるキャッシュで返済するということです。
AT&Tは、2019年のフリーキャッシュフローは約260億ドル(2.86兆円)と予想しています。
現在の配当金の支払いが年140億ドル(約1兆5400億円)ほどなので、フリーキャッシュフローの260億ドルから配当金の140億ドルを引いて、残った120億ドルをそのまま負債の返済に使うイメージですね。
配当性向だけ見ると約50%と余裕があるように見えますが、ここからさらに債務の返済にキャッシュを使うので、単純に配当性向がまだ余裕あるから増配は問題ないという結論にはなりません。
これが毎年続くと、大幅な増配は期待できません(もともとそういう期待で買う銘柄でもありませんね)。これまでどおりインフレ率と同等の2%が限界です。
EPS(1株当たり利益)の年間成長も、一桁台前半を想定しています。
通信事業は安定してキャッシュを稼げる事業なので、GEのように急激にキャッシュフローが厳しくなるということは想定しづらく、現時点でAT&Tが借金のために減配したり倒産する明白かつ現在の危険があるということではありませんが、単に高配当だからという理由で安易に飛びつかず、債務悪化懸念で株価が低迷しているという理由を理解した上で自分で判断して投資すると、この銘柄にもし何かあった時に次の行動を素早く取れるかなと思います。
買収したディレクTVの方は業績が芳しくなく当初の期待に満たない状況なので、頼みはタイムワーナーです。
ワーナー・ブラザーズやHBOのコンテンツは非常に強力なので、悲観することはないかなとは思っています。
マトリックス、ロード・オブ・ザ・リング、ゲーム・オブ・スローンズ、バンド・オブ・ブラザーズ、ハリーポッター、ファンタスティック・ビースト、パシフィック・リム、ダークナイト、カサブランカ・・・。
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