アメリカ大企業が提示する契約書に弱肉強食の米国型資本主義の思想をみる

アメリカ大企業が取引先に提示している英文契約書は、法務部の人間から言わせれば「奴隷契約」のようなものです。

先日、自分が仕事を通じて感じるアメリカ大企業の利益率が高い理由は、取引先を搾取しているからだという記事を書きました。

アメリカ大企業の利益率が異常に高いのは取引先を搾取しているから

取引内容は、契約書に書かれていることがすべてです。

そのため、契約書を細かく読めばその取引でどちらが有利な立場にあるのか、どちらの交渉力が強くその契約書が結ばれたかといったことがわかります。

本記事では、アメリカ大企業が取引に際して提示してくる契約書の特徴を概観してみたいと思います。

契約書の内容といっても、具体的な条文の細かい話をしても法務部門の人間や弁護士以外は興味がないと思うので、アメリカ大企業が使用している契約書の根底にある哲学や思想の部分を語っていきます。

アメリカ大企業の株主の方は、アメリカ大企業の契約面の強さを認識できるでしょう。

あくまで自分が会社の業務で体感している狭い範囲の体験をもとにしていますが、種々の業界を渡りあるいているベテランな法務部員の人に聞いてみても同じような実感を持っているようなので、大きく外れてはいないと思料しています。

思うに、アメリカ大企業と日本大企業の契約面の違いは、自分より時価総額の低い企業を植民地支配できるかできないかにあります。

植民地支配というとかなりドラスティックな表現ですが、それほど相手方企業を搾取しているかのような内容を契約書に詰め込むのです。

当然ながら前者の国の企業は植民地支配ができ後者の国の企業はできません。

これは企業ではなく国も同様です。国民性なのか島国だから侵略性のない気質だからなのか(でもイギリスは島国だけどそうではない)よくわかりませんが、日本は欧米のように自分より弱いものを徹底的に搾取の対象と見なすということができません。

欧米列強は、植民地支配した国をただの搾取の対象と見て、徹底的に利益を搾りとりました。奴隷貿易なんてこともやりました。

一方で日本は、先の大戦で負けたので歴史上は植民地支配ということになっていますが、進出した国をただの搾取の対象とみることはしませんでした。

搾取した面もあるでしょうが、教育システムを整えたり、インフラ整備をしたりと、その国の後の経済発展の基礎をつくるという正の遺産も残しています。その国のためになる将来への投資をしっかりとしているのです。

伊藤博文などは、隣国の発展のために貢献した人物と評価することも可能です。

なんというお人好し国家でしょうか。

戦後になると、日本が進出していた国では日本が統治していた時代の方が治安がずっとよく日本統治時代に戻って欲しいと言う現地人もいたくらいです。

なんというか、これって日本企業も同じ匂いがするんです。

日本の大企業による下請けいじめの事例もありますが、大半の日本の伝統的な大企業は、自分より弱い企業を搾取の対象と見て利益を搾り取ることに徹することはできないのではないか。

共存共栄というか、それが自社の利益にもなるので取引を重ねることで取引先の企業を育て、ともに発展していくという流れです。

一方で、アメリカ企業にはそういう発想が希薄です。少なくとも僕がこれまで読んできたアメリカ大企業から提示された契約書には、そういった精神は微塵も感じません。

俺の設定したルールで俺に利益を捧げろ。

事業部の担当者同士のミーティングやメールのやり取りでは双方にウィンウィンな取引で気前のいいことばかり言っていても、その後に提示される事業部の担当者が興味のない誰もしっかり読まない英文契約書には、先のミーティングで話した気前のいい内容は含まれず、相手先企業を徹底的に搾取しつつも自分のリスクテイクは万全にする内容となっています。

自社企業に有利なことはマックスに書いて、相手先企業にとって不利なことをマックスに書くという、とてもえぐい契約内容です。

以前業務でアメリカ大手企業から提示された契約書の内容をまとめて社長に報告したことがあるのですが、社長から、「奴隷契約になっとるな」と言われたことがあります。

I totally agree with you.

まったくもってその通りです。取引先に奴隷契約を結ばせる強さ、それがアメリカ大企業の強みです。

取引で発生した利益はオレのもの、お前が創作した新しい著作権や特許権もオレのもの、もしトラブルが発生したらお前の責任で解決してオレに一切迷惑をかけるなよ。そういう思想です。

また、グレーゾーンのルールをあらかじめ自己に有利に決める力、これもアメリカ企業は強いです。日本企業にはルール設定する力ありません。

日本の官僚が制度づくりなどで解決すべき問題があると、まずは欧米先進国の事例を探して研究してそれら制度を足して割ったようなものをつくって背景事情や歴史の異なる日本に適用することが多いように、日本はルールがない領域を自分でゼロから意思決定して決めるというのは大いに苦手です。

日本企業も同じです。

自分もよく経験がありますが、ある取引をめぐって、ある事象が発生した時にそのリスクをどちらが負担すべきかなかなか判断できないケースがあり、そういった時はその内容を契約書に書くことを回避してしまうということがあります。

アメリカ大企業はそういうことをしません。自社と相手方と、どちらがリスクを負担すべきかグレーなゾーンは、ことごとく相手方がリスクを負担するようにあらかじめ契約書でルール化してしまうんです。

簡単にまとめると、アメリカ大企業と契約書の条文をめぐって交渉していると、以下のようなことを実感します。

  • アメリカ大企業は、自社に有利なルールを予め契約書に設定し、それを取引先企業に飲ませる圧倒的な交渉力を持っているジャイアン
  • 日本企業と異なり取引に関する明確なルールメイキングができる
  • 相手先企業から利益を搾取する合理的な非情さがある
  • 取引から想定されるリスクを最小限にする徹底的なリスク回避思考

「何か困ったことが発生したらひとまず協議しましょう」という日本企業とは取引をめぐる根本思想が全く異なります。

契約書とは、「何か起きた時に協議しなくてもよいように予めルールを明文化したもの」なのです。

書いてあることしか合意していないし、書いてないことは合意していない。

担当者同士がメールでやりとりした内容が契約書に書いていなかったら、それは当事者で合意していないということです。

1つ興味があるのは、アメリカ巨大企業同士で取引するときに、契約書はどうしているんだろうという疑問です。

お互い絶対譲らないだろうから、契約交渉だけで2年くらいかかってしまいそうなイメージです。

例えばそんな取引ないかもですが、アップル対エクソンモービルとか、IBM対アマゾンとか、どうやって契約書の具体的な文言を合意しているのか、そういった巨人同士の契約書の合意過程には興味があります。