ウォーレン・バフェットは「コモディティ型」の企業を嫌います。
コモディティ型の企業は、商品・サービスをブランド力によって差別化できず、消費者にとっては唯一「価格」が選択基準となります。
結果、顧客獲得のために競争相手との激しい競争に陥り、利益率が削られて損耗していき、株主への高いリターンも望めません。
コカ・コーラのように、低い原価の商品をブランド力で高い値段をつけて消費者に売ることができないんですね。
「億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術」(メアリーバフェット、デビット・クラーク著 日本経済新聞出版社)という本を読んでいたら、投資を避けるべきコモディティ型の企業の特徴が述べられている箇所がありました。
コモディティ型企業の特徴は、以下の7つです。
- 売上高利益率が低く、在庫回転率が低い
- ROE(自己資本利益率)が低い
- 商品・サービスにブランド価値がない
- 競争相手が多数
- 業界全体に相当な過剰生産能力がある
- 利益が不安定
- 利益の設備稼働率に対する依存度が大きい
これらの基準を読んでいると、これって完全に石油企業のこと言ってるじゃんと思いました。
石油企業、特にオイルメジャーは、株主還元に熱心な高配当な企業が多く、アメリカ株投資家からも人気の高い企業です。
具体的に名前を挙げると、エクソンモービル、ロイヤル・ダッチ・シェル、シュエブロン、BP、トタルなど、セブンシスターズの系譜を引く企業です。
僕もエクソンモービルとBPには投資しています。
かっこいいですよねオイルメジャー。海外でオイルメジャーの工場の巨大さを見ると、男としてはそのロマンから投資せずにはいられない対象です。
しかし、上に挙げた7つの基準を当てはめると、オイルメジャーは、バフェットが好む消費者独占型の企業ではなく、凡庸なコモディティー型企業の特性を備えていることがわかります。
以下、消費者独占型企業のコカ・コーラと比較していきます。
1 売上高利益率が低く、在庫回転率が低い
売上マージンが低いということは、商品1つ1つの稼ぎが低いということです。
また、無駄に在庫を持つと、効率的な経営ができません。
高収益企業は、高いマージンの製品・サービスを高回転させてキャッシュをどんどん稼いでいきます。
エクソンモービルの売上高純利益率の2016年から2018年の推移は、3.59%、8.31%、7.46%で、直近5年平均は6.42%です(数字のソースはMorningstarです。以下同じ)。
一方で、消費者独占型企業の代名詞であるコカ・コーラの売上高純利益率は20%を超えます。
在庫回転率で見ると、XOMは5年平均で12.55日、コカ・コーラは5.06日です。
利益率で行くと、圧倒的にコカ・コーラのほうが上で、XOMの収益力の低さが目立ちます。
在庫回転率については、XOMも別に悪い数字でないと思いますが、業界の相場がわからないため何とも言えません。
2 ROE(自己資本利益率)が低い
ROEは企業の収益性を示す指標で、これが低い企業はコモディティ型に属する可能性が高いです。
XOMのROEの5年平均は9.82です。
アメリカ企業の平均が12%〜14%とかなので、低い数字です。
コカ・コーラは24.16と、ここでも収益性の高さの違いが表れています(2017年の6.22という異常値を入れてこの数字です。おそらく税制改革の影響と思われます。)
3 商品・サービスにブランド価値がない
車のガソリンを入れる時に、俺はエクソンモービルのブランドが付いた石油じゃないと給油しないという人はいるでしょうか。
中にはいるかもしれませんが(そのような企業への愛着心はとても良いことだと思います)、一般的には石油はみんな石油で、ブランドによる色はありません。
身近で1番安いガソリンスタンドで給油するという人がほとんどでしょう。
化学的にどれも同じ成分のもので同じ製品ですので、ブランド価値を築くことができる性格の商品ではありません。
製品にブランド価値をつけることができないということは、業界特性として価格競争に陥りやすいです。
コーラといえばコカ・コーラを消費者が思い浮かべ、高いブランド力を保持するのとは対照的です。
4 競争相手が多数
競争相手が多いと、当然価格競争やサービス競争が発生しますので、安売りに繋がったり利益率が圧迫されます。
石油産業は、競争相手が多く、独占市場を築くことができません。
欧米のオイルメジャー間の企業間競争に加え、石油輸出国機構(OPEC)、中東諸国、エネルギー大国ロシアなど、グローバルに競争が発生します。
サウジアラビアの国営企業サウジコムは、時価総額200兆を超えるという巨大さです。
また、石油という枠を超えてエネルギー業界全体で見ると、風力・太陽光・水力などの再生エネルギー業界、天然ガス、原子力など、様々な分野で競合が発生します。
しかも技術革新のスピードが速く、アメリカのシャールガス革命や損益分岐点の高かった太陽光発電のコスト低減など、従来予想を超えるスピードで新たな競合となる存在が発生してきています。
今後も予想していなかった分野から新しい競合が出てきるかもしれません。
競合(潜在的競合含む)の多い厳しい業界です。
コカ・コーラの競合は、コーラ市場ではペプシコくらいでしょうか。
それほどまでにコカ・コーラは圧倒的な存在です。
個別の企業よりも、炭酸飲料の規制や、消費者の健康嗜好が高まるといったように、企業間競争の枠を超えたところの規制や生活習慣の変化のほうが脅威でしょう。
5 業界全体に相当な過剰生産能力がある
石油は供給過剰状態が続いています。
オイルメジャー各社は原油価格の低迷で収益停滞にあえいでいます。
アメリカのシェールオイルの供給が拡大したことによる原油価格の暴落に危機感を覚えてOPECやロシアが石油の価格を維持するために減産合意をしたことは記憶に新しいのではないでしょうか。
世界的にもクリーンエネルギーを好み脱・石油社会推進の流れが起きており、このような環境変化も石油の需要を減少させます。
供給過剰状態だと、価格は下がり、利益率は下がります。
6 利益が不安定
利益が不安定な企業は、景気変動や環境変化の影響を受ける企業であり、コモディティ型企業の可能性が高くなります。
XOMの過去10年間のEPS(1株あたり利益)の推移です。ソースはMacrotrendsです。
・2019年:$3.36
・2018年:$4.88
・2017年:$4.63
・2016年:$1.88
・2015年:$3.85
・2014年:$7.60
・2013年:$7.37
・2012年:$9.70
・2011年:$8.42
・2010年:$6.22
どうでしょうか。利益に安定感はあるでしょうか。
年によって数字の変動が大きく安定しませんね。この数字を見ると近年の落ち込みがよくわかります。
これがコカ・コーラだと、以下のような数字になります。
・2019年:$2.07
・2018年:$1.50
・2017年:$0.29(税制改革による異常値)
・2016年:$1.49
・2015年:$1.67
・2014年:$1.60
・2013年:$1.90
・2012年:$1.97
・2011年:$1.85
・2010年:$2.53
思ったほど右肩あがりではありませんが、XOMよりも安定しているのがわかるかと思います。
7 利益の設備稼働率に対する依存度が大きい
設備といった有形固定資産の稼働率に収益が依存していると、設備投資への投資が必要となるし、利益は設備の稼働率で決まります。
石油産業は莫大な設備投資を必要とします。
XOMは、総資産の9割弱が固定資産です。
一方でコカ・コーラは、その収益の源泉をブランドという無形固定資産に依っています。
コーラを作るためには石油産業のような多くの設備投資も必要ありません。
以上、コモディティ型企業の特性となる7つの基準を当てはめてきましたが、石油企業はどれもこれに該当し、消費者独占型企業ではなくコモディティ型企業の性格を持つことが確認できました。
一般論としては、景気変動や需給関係といった外部要因に業績を依存し、商品・サービスに差別化できる要素がなく「価格」が最大の選択基準となる事業は、投資に向きません。
それよりは、高いブランド価値や差別化できる商品・サービスを持ち、価格決定力を持ち高い収益力を持つ企業に投資したほうが報われる可能性が高いでしょう。
加えて石油株はESG投資の普及により売りの対象になりやすいです。
だからといって、エクソンモービルやロイヤルダッチシェル、BPといった個別企業への投資が報われないと短絡的に結び付けるつもりはないです。
厳しいコモディティ業界の中でもこれまで生き延び株主に報いてきた時の試練を経た優良企業群ですので、現在は業績が低迷していても、自社努力によってやがては復活して高パフォーマンス銘柄となるかもしれません。
また、市場は楽観か悲観どちらか一方に傾きやすいので、過剰な悲観によって割安に評価される状況では、投資チャンスも生まれます。
個人的には、「石油産業はもう終わった」という声が聞こえていて石油企業への投資の適否の意見が割れている状況の方が投資する旨味があると思っています。
このあたりはたばこ企業への投資と同じですね。