債務超過の米国企業の株価が上がってキャッシュリッチで財務優良な日本企業の株価が下がる理由【DCF法から考える企業価値】

先日の日本経済新聞に、「米企業、株主還元で債務超過 スタバなど24社計7兆円」という内容の記事がありました。

アメリカ大手有名企業は、低金利で借り入れた資金を使用して利益を上回る規模の配当や自社株買いを実施し、株主に稼いだ以上の金を還元しているが、株主還元に傾斜する財務戦略は金融環境の変化で経営が不安定になるリスクがあるというものです。

アメリカ主要500企業のうち24社が債務超過という現状のようです。

具体的な企業名と債務超過額は以下のようになっています。

  • フィリップモリス:95億ドル
  • ボーイング:83億ドル
  • マクドナルド:82億ドル
  • ヤムブランズ:80億ドル
  • スターバックス:62億ドル

超有名優良企業ばかりですね。

アメリカ株投資家としては、株主還元に積極的な企業姿勢が確認できます。

ボーイングなどは、737MAXの影響で業績へ多大な影響が出ているのに、配当金を減額していません。

日本の日産自動車が業績不振で速攻で減配したのとは対照的です。

日産が赤字決算で期末無配へ【通年で82%減配】【リーマンショック以来の赤字決算】

しかし考えてみると、債務超過な企業って価値があるんでしょうか。普通に考えると、倒産しないのだろうかと心配になってしまいますね。

大量の借金だけ抱えていて全く貯金のない男と結婚したいと思いますか?

そんな人いませんよね。娘がそんな男と結婚したいって言ったら普通の親は全力で止めるでしょう。

でも実際には、これら債務超過のアメリカ有名企業の株を買いたい、持ちたいという人はたくさんいるし、儲かると思っているから投資しているわけです。

そしてこれら債務超過の企業は(ボーイングは今は株価下がっていますが)、過去を見れば優良企業にふさわしく右肩あがりで株価は上昇しており、投資家に報いてきたのです。

一方で、無借金で財務優良にもかかわらず、万年低PER、低PBRでしかも株価はひたすら右肩下がりで全く市場から評価されない・・そんな日本企業だってたくさんあります。

日本企業を見てみると、上場している企業で債務超過な企業はありません。

これは、東京証券取引所のルールで、債務超過になってから1年以内にこれを解消できなければ上昇廃止になってしまうからです

日本企業は、財務安全性の指標と言われる自己資本比率の高い企業が多く、無借金経営で財務ピカピカの企業もたくさんあります。任天堂とか無借金経営で有名です。

でも現実には、上で述べたように債務超過で借金抱えているスターバックスの株価のほうが、大勢の無借金でキャッシュリッチで自己資本比率の高い企業の株価よりもずっとパフォーマンスがいいんです。

なぜこう言った現象が起きるのでしょうか。なぜ借金抱えてる企業の株価が市場で評価されるんでしょうか。考えてみると不思議じゃないでしょうか。

この理由は、企業の株主価値が市場でどうやって評価されているのかを理解すると納得がいきます。

企業の適正株価はどうやって算定されるかご存知でしょうか。

俺の勘!、私の言い値!!そうですね。

そうだといいのですが、市場のメインプレイヤーである大手機関投資家は、株主にとっての企業価値をDCF法(Discounted Cash Flow)というフレームワークを使って算定します。

なんじゃそれと思う方も多いと思いますが、世界最高の投資家ウォーレン・バフェットもDCF法によって企業価値を算定しています。

なんとなく安そうだから、直近高値より20%下がったから、という株価の動きしか見ずに投資をするのではなくて、企業の実態を見て具体的な数字を使って、適正な企業価値を算定するのです。

バフェットレベルになると暗算で数秒で企業価値が算定できその案件が持ち込まれたその場ですぐに投資するか否かの決断を下せると言います。

算定した企業価値と不合理な市場がつける株価という値札に乖離がありバーゲンセールで取引されている時に、その企業を買えるだけ買うんです。

株価を見ずに企業をみるとは、こういった企業の本源的価値(Intrinsic Value)を算定することでもあります。

DCF法とは、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローの総和を現在価値に割り引いて企業価値を算定する方法です。

意味がわかりませんね。僕も意味がわかりませんすいません。

例えば、ある企業が1年目に1億円のフリーキャッシュフローを生み出し、2年目は2億円、3年目は3億円、4年目は4億円・・・といった感じにフリーキャッシュフローを創出するとすると、これら生み出したお金の現在価値の総和が企業価値になります。

「現在価値に割り引く」という概念が難しいのですが、簡単にいうとお金の価値は現在のが将来よりも高く、時間が経過するほどに価値が低減していくということです。

今手元にある100万円と、一年後にもらえる100万円が同価値であると考える人は、投資のセンスがありません。

今手元にある100万円の方が、1年後にもらえる100万円より価値があります。

100万円を国債に投資すれば、1年後には無リスクで金利分儲けが付加されます。したがって、最低でも無リスクの金利プレミアム以上の価値を追加でもらわなければ割りに合わないんです。

ここでDCF法について具体的に述べるつもりはありません。

僕も理解が完全か自信がないし、しっかり理解するには本一冊読まないといけないレベルになります。

ただ大事なのは、株主にとっての企業価値というのは、その企業が将来生み出すフリーキャッシュフローが重要になるということです。

どれだけ安定してキャッシュを生み出せるか、しかも成長性を伴ってキャッシュを長きにわたって生み出していけるかが重要になります。

収益性・安定性・成長性といった要素が大事になるわけです。

こういった欧米機関投資家の企業価値評価のスタンダードであるDCF法の発想から行くと、債務超過の企業の株価が上昇して借金ゼロで現預金たんまりの財務超優良な(だけの)企業の株価が評価されない理由が見えてきます。

大事なのは、企業が将来創出するフリーキャッシュフローです。

借金がなくてキャッシュリッチでも、収益性が低く、キャッシュフローの安定性・成長性のない企業の本源的価値は、上記のDCF法の算定では低くなります。

キャッシュフローが創出できていないのだから、評価が低くて当たり前なのです。

お金を新たに生み出せない企業は、価値がないんです。

無借金で現預金があっても、将来にわたって新たな金をその企業が創出できなければ、その企業の価値は手元にある現預金や売却可能な資産の総和にしか過ぎません。

反対に債務超過な企業であっても、将来長きにわたって安定して成長性を伴ってフリーキャッシュフローを生み出すことができれば、その企業の本源的価値は高くなり市場から高評価されます。

新たにお金を生み出し続けることができるんだから、当然です。

スタバやマクドナルドやフィリップモリスが債務超過で危ないんじゃないかと単純に考えてしまいがちですが、そういったなんとなくの感覚で物事を評価するのではなく、株式市場で企業の値付けがどのように行われているのかというDCF法のようなフレームワークを使えるようになると、こういった底の浅い日経の記事を自分なりの軸で見ることができるようになります。

スタバもマクドナルドもフィリップモリスも、毎年新たなキャッシュを数千億円単位で稼ぎまくっているわけです。

企業価値に大事なのは収益性・安定性・成長性を持って将来フリーキャッシュフローを生み出すことができるかどうかであり、その観点から債務超過企業を見ると、借金企業の株価が高値で取引されることに納得がいきます。

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