価格破壊は雇用破壊・人間破壊を引き起こし社会・経済活動を疲弊・停滞させる

世の中には、個々人が求める個別最適の集まりが、社会の全体最適を必ずしも実現しない事例というのが少なからず存在します。

抽象的すぎて何を言っているのかさっぱりわからんと思われる方もいると思いますが、分かりやすい例だと、個人の貯金です。

みんなが将来に備えて貯金したら、それが個々人にとっては適した行動であったとしても、社会全体でみれば経済を回す貨幣の動きが凍結され何の循環もおきませんので、ただ不景気になるだけです。

企業の人件費カットもそうです。企業にとってはコストを削減でき経営の効率化をなせる行為ですが、多数の企業がそれを行うことで給料が下がった多くの消費者の需要が低迷し、企業のモノが売れず経済が低迷します。

このような個々の人間や企業といったミクロ単位での合理的な行動の集積の結果、社会全体で意図しない好ましくない結果が生じることを「合成の誤謬」と言いますが、消費者が徒に安い製品・サービスに対価を払う行為も社会全体にとって好ましくない結果を引き起こす合成の誤謬が生じます。

特に、過度な低価格が望ましいとして商品・サービスの価格破壊が起きると、価格破壊が雇用破壊を惹起し、雇用破壊がやがて人間破壊につながり社会全体が疲弊してしまうという負の連鎖が発生します。

私たちは消費者であると同時に生産者・労働者であり、消費者側からのメリットばかりを追い求めると、それがブーメランとなって生産者・労働者側の自分を苦しめることを理解する必要があります。

消費者としては、同じ商品だったらできるだけ安い価格で入手できたほうが嬉しいです。

欲しいモノやサービスがあっても、定価で買わず値引きし、各通販サイトで比較したりと、なるべく安い価格で商品やサービスを買おうとするのは当たり前の行動です。

企業は、安くすれば売上が上がるのであれば、値下げをして商品を売ろうとします。

ただ、価格を下げるということは、商品・サービスにかかるコストを下げなければならないということです。

チェーン店で牛丼やハンバーガーを安く食べる事ができるのは、低賃金で働いている労働者がいるからです。

仕事の無駄を省いて効率化したり、より優れた機械を開発・購入して投下資本あたりの生産量・サービス量を改善できればよいですが、それにも限界があります。

会社に係るコストで最も大きいものは人件費です。社員の給料です。

コストを下げるためには、労働者の賃金を下げないといけません。

あるいは正社員を減らして低賃金の非正規労働者を採用するとか、派遣社員を増やすとか、なるべく低い賃金で労働者を雇用するインセンティブが企業には働きます。

コストをかけずに社員に働いてもらう必要があるので、残業代を払わない違法労働が横行します。企業に搾取される労働者側も余裕がなくなるのでパワハラが横行します。

そのようなかたちで労働者側の給料が下がると、労働者は労働者であると同時に消費者でもありますので、消費に回せる余剰のお金が少なくなります。

生活が不安定となり消費量が減ります。そんな労働者が増えれば増えるほど、社会全体の需要は減ることになります。

需要が減れば、モノやサービスが売れなくなりますので企業活動や業績にも負の影響が出ます。

需要が細ったことで企業は将来に悲観的になり設備投資が減少しますし、コスト削減のためにいっそうの人件費を含めたコストカットに励みます。

給料は上がらない・未来は見えない・生活は安定しない三重苦の消費者はますます安いサービスを求めます。
デフレ社会となり負のスパイラルの繰り返しです。

給与カットや雇用が不安定になった労働者にも、家族がいます。

妻や子どもを養わなければなりません。

今まで家族を養えていたのが経済的に厳しくなりこれまでの生活水準が維持できなくなり生活水準が下がります。

お金の問題で妻との口論が増え、夫婦仲が悪くなります。

夫の収入だけでは家計を維持できなくなり、妻も働きに出ます。子どもは1人家に残されます。

夫も妻も余裕がなくなり家庭は疲弊しひびが入り、子どもの成長に悪影響が出ます。

見渡せばそんな余裕のない家族ばかりになり、そんな家族の集まりの地域コミュニティーも崩壊します。

若者も、低賃金労働環境では結婚できず、結婚しても余裕がなく子どもを産まなくなります。

余裕のない疲弊社会・デフレ社会・少子化社会の定着です。

夫と専業主婦の妻・子ども2人の核家族という、妻が働かなくとも夫だけの収入で家庭を維持できた健全な時代が懐かしいです。

モノ・サービスの価格が過度に安くなる「価格破壊」は、「価格破壊」⇒「労働破壊」⇒「人間破壊」へと帰結します(「価格破壊」「労働破壊」「人間破壊」という言葉は、京大経済学部の佐伯啓思名誉教授の言葉を使用しています)。

消費者としてより安い物・サービスを求めるのは、経済合理性のある行動で、それ自体は当然の行動ではありますが、バタフライエフェクトといいますか、過度な値下げを求める消費者様の行動1つ1つが積み重なって、企業が値下げ競争に入ると回りまわって労働者でもある自分自身の労働環境を悪化させ、雇用形態不安定化、給与減少、ブラック企業問題、高ストレス社会、デフレ社会、家庭の不安定化と、望ましくない世の中づくりに影響を与えることになってしまいます。

パピコ、ジャイアントコーン、チョコモナカといったアイスクリームを初め身近な商品を含めていろいろなものが値上げされていますが、社会経済にとって適度な値上げは健全なことだと思います。

適度なインフレ率を保っている国で勤務している友達は、毎年家賃は上昇するし毎年ケーキ屋さんのケーキの値段が上がるのが実感できると言っていました。

20年間デフレ状態で、値下げするのが当然で値上げは悪だと思っている日本人が普通じゃないのです。

国から先に値上げして、国家公務員の給与もどんどん上げてもらっていいと思います。



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