会員数が約6800万人もいるというTカードを発行しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、捜査機関の要請に応じてTカードの会員となっている個人の個人情報を捜査機関(検察や警察)に提供していたことが明らかになりました。
従来は裁判所の捜査令状がある場合のみ捜査機関に個人情報を提供していたものの、2012年からは裁判所の令状がなく捜査関係事項照会書により紹介された場合にも個人情報を提供していたということです。
このニュースを聞いて、1企業の法務部員としては、今更こんなことでメディアを賑わせてしまうのかととても意外でした。
こんなことCCCだけではなく大半の企業がしていることなのではと思えてなりません。
これがNGなら個人情報を扱っている企業は全て全滅してしまうのではないか。
むしろ企業としては捜査機関から照会があった場合には基本それに応じる以外の選択肢は取れないのではと思います。
以下、まずは本件のCCCの対応が違法なのか、ただの法務担当者の私見を述べます。
個人情報を捜査機関に提供する行為は適法
捜査機関に会員の個人情報を提供していた行為は、違法か適法かで言えば適法だと思われます。
Tカード会員規約と思われる規約をざらっとみましたが、個人情報の取り扱いについて定めた条項のところで「法令に基づく場合には個人情報を開示できる」旨の規定がありました。
捜査機関の照会は、法令に基づいています。
ニュースで流れている検察や警察といった裁判所の令状のない捜査機関の照会というのは、以下刑事訴訟法第197条第2項に基づいてます。
(任意捜査の原則)
第197条
- 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
- 捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
従って、刑事訴訟法という法令に基づく照会に対して個人情報を開示しているので、Tカード会員規約に則った行為をしており、規約違反はないし違法性もないと考えることができます。
また、仮に会員規約に個人情報の第三者開示を許す定めがない場合であっても、個人情報保護法第23条第1項1号によれば、「法令に基づく場合」は個人情報を第三者に提供することが可能です。
同じく個人情報保護法第23条第1項4号の、「国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき」に該当するので捜査機関情報を開示できると考えることもできます。
CCCは今後規約を変更して捜査機関からの求めがあった場合に個人情報を提供すると明記するようですが、これはこれまでの違法性のない運用をユーザーフレンドリーに明文化するということに過ぎません。
まあ誰もこんな長い規約なんて読まないでしょうけどね。
企業が捜査機関の照会を拒否するのは厳しい
現実問題として、刑事訴訟法に基づく警察の照会書が届くと、企業は情報提供を拒絶することは難しいです。
本当に情報を提供する必要性を吟味して提供の可否を厳格に判断すべきという意見もあると思います。
しかし、捜査段階において、どのような捜査を行っていてなぜその情報が欲しいのかという具体的で明確な理由を捜査機関が開示してくれないことがほとんどではないでしょうか。
照会を受けた企業としては判断材料がありません。
裁判所の令状がない場合には一切個人情報を提供しないという超厳格な運用もありうるのでしょうが、仮に重大な犯罪の捜査をしていて、情報を提供していれば未然に犯罪を防げたり犯人逮捕にもつながる場合があるわけで、その場合は個人のプライバシー保護なんかよりも、犯人逮捕の方が守られる利益はずっと大きいわけです。
一律に令状を求める運用をするのも、犯罪を抑止し国民の安全を守るという観点からは極端であるという考えも成立します。
警察からの照会で求められた全ての情報を一切開示しないにしても、一定の個人情報は捜査協力のために開示している企業が大半というのが現実でしょう。
CCCの行為がNGなら、ドミノ倒しで会員情報とかおよそ個人情報を取得している多くの企業も同じような状況になってしまうものと思われます。
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