物事を3つのポイントに要約してまとめて説明しなければならないサラリーマン社会の鉄の掟の弊害

人類というものは、受験勉強でも会社に入っても、やたら要約する能力が要求されます。

国語や英語の記述試験では文章を○○字以内で要約せよと中学時代から問題文に命令されるし、会社に入ってからは上長や部長、執行役員への説明資料を、上の役職者に上がれば上がるほど抽象度を高くした短い分量による資料が要求されます。

ワード1枚でまとめてねとか、どんな複雑な事象でもだいたい3つのポイントに分解できるとかよく言われるフレーズです。

こういった要約スキル・短く概要をまとめた資料作りのスキルが高い人が受験戦争でも出世戦争でも優位に立つことができます。

要約スキルが必要なことを否定するつもりは毛頭ありませんが、普段から仕事をしていて、要約すればするほど、問題になっている事案の大事なポイントがどんどんと捨象されてしまい本質が抜けてしまっていると感じることがよくあります。

これは自分が普段担当している業務が要約することよりもあがってきた情報を「広めて」考えることが必要とされる性質があるということも理由です。

僕は普段は取引先との様々な取引に関する契約書のドラフト・レビューをすることがメインの業務です。

契約書は、取引内容をワード1枚に要約してできる文書ではありません。逆に、与えられた情報から「拡散」する思考が必要になってくる作業です。

事業部からこういった内容で新規の取引をするから契約書をいついつまでにつくってくださいと依頼が入ったときに、まず必要になるのが取引内容の詳細を理解し、その取引に関連して後で相手方と揉めないように、取引を巡って将来起こり得そうなパターンとそれに対する対処の仕方を予め契約書の内容としてしっかりとまとめることが必要になります。

短くてあっさりしたメールを依頼者からもらっても、結局は全体像や詳細を確認するためにこちらからインタビューしたり打ち合わせをしなければなりません。

要約した内容だけもらっても、その取引に固有のリスクとか気を付けるべきポイントが見えてこないことが少なからずあるのです。

そしてこれは、いろんな場面における会社内部の文書も同じです。

現場担当者が把握しているその案件固有の温度感とか肌感覚とか、そういったなかなか言語化できないけれど1番大事なものが、上にエスカレーションされていくほど抜け落ちていき、最後は文書の体裁だけは滑らかだけど本当に伝えたい具体性が捨てられた「ビジネスのテンプレ要約文書」となります。

自分が担当者になって対応していた対外開示用の文書を作成しているときに、文書の内容について部長や執行役員向けの説明資料をつくり、執行役員とともに社長に説明にいったのですが、突然執行役員の人が社長に向かって「ポイントは3つだけです」とか言い出して執行役員自身が大切だと断定した(でも現場担当者である僕は全部大事で捨象できる情報などないと思っていた)ポイントをあっさりと説明しだし、社長も納得してしまったのです。

こうやって大事な現場感覚の情報が上に伝わらずに闇に葬られていくんだなと実感した瞬間でした。

「複雑な事象でも絶対に3つのポイントに因数分解して説明しなければならないサラリーマン社会の鉄の掟」の弊害は、社外取締役や社外監査役が企業の不祥事を全く発見できない理由の一因にもなっているのではと思います。

これは考えてみれば当たり前ですが、社外役員まで生きた情報があがってくることはほとんどないんです。

社外取締役や社外監査役は、月1回の会社での取締役会や監査役会といった会議に出席して年収1000万もらえる元経営者の老後の名誉職としてとても美味しい役職ですが、彼らが自分から社内に情報を積極的に取りに行くということはほぼありません。受け身100%のポジションです。

取締役会の事務局担当者が作成した資料を前日か当日に見るだけです。

しかも役会資料も、会議の現場に出るまでに「会議用の資料」にもれなく加工されます。

資料の流れとしては下のようなかんじでしょうか。

現場社員⇒現場社員の上司⇒取締役会担当部門(総務とか商事法務とか)の担当者⇒取締役会担当部門の担当者の上司⇒担当執行役員⇒社外取締役・社外監査役

この各過程で、いろいろな情報がはぎ取られ舌ざわりの良い加工食品になるように資料の内容が加工されます。

現場担当者だけが感じているなかなか文字として表現できないような現場の感情的なしこりとか空気感とか些細なことだけれど説明から省くべきではない経緯・背景とか、現場感覚的なものが一切なくなり、体裁美しき素敵なビジネステンプレ資料になります。

そんな資料に基づいて、当日はこの要約された資料の内容をさらに説明担当執行役員が要約して口頭で説明するので、より内容は薄くなります。

これで不祥事とか企業内部の悪い問題に気付けるわけはないんです。

まさに「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きているんだ」と叫びたくなりますが、昨日も今日もそして明日も会議室用の加工食品のようなテンプレ資料を作成することに心血が注がれて、1番大事な現場感覚を誰もみないというのが多くの日本企業の役員会議室で起きている現実ではないでしょうか。

もしも自分が会社で資料を提示される立場になったら、「資料は決して事案を要約してもってくるな」「3つのポイントに絞った資料は作成するな」という方針を掲げようと思っています。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です