アメリカの経済団体である「ビジネス・ラウンドテーブル」なる団体が、「株主第一主義」を廃止し、企業はすべてのステークホルダーの利益にコミットするとする声明を発表しました。
ビジネス・ラウンドテーブルと云う名称は初耳ですが、日本でいう経団連のような組織と思われます。
ジョンソン&ジョンソンやアマゾン、JPモルガンなど、アメリカの超一流企業も数多く参画しています。
そもそもアメリカ企業は、株主軽視の日本と異なり株主利益を最重視することがアメリカ株投資の1つの魅力でありました。
それが今後、株主利益ファーストとの態度をとらないことでアメリカ株投資の魅力が薄れるのではないかと懸念されます。
このような時に、日経なりBBCなりのニュースといった二次情報よりも、一次情報たる実際の声明文を読むのが大切です。
実際読んでみましたので、以下全文を日本語訳します。
<企業目的に関する声明>
アメリカ人は、各々が勤勉と創造性を通じて成功し、そして価値と尊厳ある暮らしを送ることのできる経済を受けるに足りるのである。
我々は、自由市場システムが全ての人にとって、良き仕事、強く持続性ある経済、イノベーション、健全な環境と経済機会を生み出す最良の手段であると確信している。
事業は経済において重要な役割を果たしている。仕事を創造し、イノベーションを助成し、不可欠な商品・サービスを提供している。
事業は消費財を製造・販売し、器具や乗り物を製造し、国防をサポートし、エネルギーを生み出し配送し、資金・コミュニケーション・その他サービスを提供する。それらは経済成長を支えるものだ。
個々の会社ごとにそれぞれの企業目的を掲げているところではあるものの、我々はすべてのステークホルダーに対する重大なコミットメントをここに共有する。
我々は、以下をコミットするのでござる。
- 顧客に対して価値を提供すること。顧客の期待を満たし又は期待を上回ることにおいて先導するというアメリカ企業の伝統をさらに発展させる。
- 従業員に投資すること。これは公正な報酬の提供と重要な便宜を与えることから始まる。また、急速に変化する世界に対応するための新たなスキルの習得を手助けする訓練・教育を通じての従業員支援を含むものである。我々は、多様性・一体性・尊厳・敬意を養成する。
- サプライヤーと公正で倫理的な取引を実施すること。我々のミッション到達を助けてくれる他社(大小問わない)と良きパートナーとなるよう尽くす。
- 我々が労働するコミュニティーをサポートすること。我々のコミュニティーの人々を尊敬し、ビジネスにおける持続可能な慣行を受入れることで環境を保護する。
- 企業が投資し、成長し、イノベートするのに必要な資本を提供してくれる株主に対して、長期的な価値を創造すること。株主との透明かつ効果的なつながりをコミットする。
どのステークホルダーも不可欠な存在である。
企業・コミュニティーそして我が国の将来の成功のため、すべてのステークホルダーに価値を届けることをコミットするでやんす。
一言で言えば、株主の個別最適の追求から、すべての利害関係者の全体最適を追求するという方針に変わったということでしょうか。
ただ、「株主の利益を軽視する」なんて文言は当然入っていないし、株主のために長期的価値を創造するとの文言が入っています。
この文言の発表でアメリカ企業への投資の魅力がなくなるかですが、日本政府風に回答すれば、「直ちに影響は出ないものの、状況を注視する必要はある」という程度感だと考えます。
実際には、この声明を受けてから各企業が突然株主価値を軽視した政策を実施するとは考えづらいし、ここ数年間株主利益集中ではなく従業員・顧客・社会とすべてのステークホルダーの利益を当たり障りなく全部追求している企業が増えており、その後追いとしてこのような声明を出したというのが正しいのではと思います。
株主利益を重視するというのはアメリカ資本主義に根付いた文化なので、急速にそれが失われることはないでしょう。
この声明の発表でアメリカ企業の株価も暴落していません。
またこの声明の発表によりアメリカ企業の業績が悪化したというわけでもありません。
これを読んだ時に思ったのは、JTが掲げる4Sモデルと同じやんということです。
JTは、企業理念として、「お客様を中心として、株主、従業員、社会の4者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく」を掲げています。ほぼ同じ考えですね。
つまりすべてのステークホルダーの利益をバランス良く満足させていくということで、とても立派なこと言っているけどとても当たり障りないこと言っています。
時代を先取りする我らが最強の高配当株JTさんはさすがの一言です。JPモルガンのCEOよりもはるか先を見ていたということです。
ジョンソン&ジョンソンやローリンズなど、例えば企業理念に従業員重視を打ち出す企業はアメリカ企業にもたくさんありますし、「株主を重視する」というのは1つのファクターに過ぎず、結局は将来にわたって業績が伸びて利益を出し続ける銘柄に投資するという原則は不変です。
従業員や社会を重視した結果株価が上がるならそれは結局株主のためになるので、僕はこれを受けてアメリカ株投資を控えることは考えていません。