ジョンソン・アンド・ジョンソン(JNJ)の株価は、同社製品のベビーパウダーにアスベストが含まれていることを数十年もの間把握していながらもその情報を内部隠ぺいし外部に公表していないというロイターの報道によって10%も暴落しました。
しかし、ジョンソン・アンド・ジョンソンは、ロイターの報道は一方的で誤りを含む扇動的なものに過ぎないと全面否定し、ベビーパウダーは安全で一切アスベストは含まれていないとする声明文を即座に出しています。
ジョンソン・アンド・ジョンソンの声明文全文はこちらの記事で翻訳しています。
ジョンソン・アンド・ジョンソンの声明文翻訳しました~アスベスト問題により16年ぶりとなる1日で10%暴落を記録
声明文に加えて、12月17日には50億ドルの自社株買いの発表を行いました。実に迅速な行動です。
ベビーパウダーにはアスベストを含んでいないという同社の主張の正当性を株主に具体的な行動を通じて強くアピールするということでしょうか。
自社株買い発表のプレスリリースを見てみると、CEO自身が、現在のジョンソン・アンド・ジョンソンの株価は「魅力的な投資機会である」(an attractive investment opportunity)と発言しています。
今回のロイターの記事が心配でたまらない株主へのリップサービスの意味もあるのかもしれませんが、最大のインサイダーであるCEOが自ら自社の株は今は買い時だと宣言してしまうのですから、アメリカ企業はすごいです。
ここまで言ってしまって実は隠蔽が明らかになりましたとか発覚したら株主からクレームの嵐なのではないかと心配になってしまいます。
日本企業について見てみると、日本最大のヘルスケア企業でシャイアー社の巨額買収による財務悪化懸念で株価が暴落している武田薬品が、「当社の現在の株価は投資家に魅力的な投資機会を提供している」と発言するイメージがあまり湧きません。
今回発表された50億ドルの自社株買いは、いつまでにこれを完了するといった期限がありません。
そのため、50億ドルの自社株買いをいつ実施するかはJNJのマネージメント層の都度の意思決定により決まります。
通常自社株買いが発表される場合は、自社株買いに充てる金額と自社株買いを実施する期間が同時に発表されることも多いです。
ありえませんが10年後に今回の枠で決まった金額の自社株買いを実施しても何らプレスリリースの内容には反しないわけです。
僕が今回の発表で1番気になったのは、経営層の意向でいつでも自社株買いが中止・撤回される可能性があることです。
プレスリリースの本文を読んでいくと、50億ドルの自社株買いプログラムは、「一定期間に渡って停止されたり、いつでも中止されることがありえる」(may be suspended for periods or discontinued at any time)と書かれています。
つまり、50億ドルの自社株買いを発表したはいいものの、ちょっとだけ自社株買いした後に経営層の意向によりいつでも自社株買いを中止できるし、撤回することも可能ということです。
何の拘束力も会社に課していません。
こういった記載を見ると今回の自社株買いは、とりあえず自社株買いするから安心したまえという株主へのメッセージ効果が主眼であることがわかります。
もちろん、10%暴落して株価が割安だったのが、ロイターがフェイクニュースであったことが判明してすぐに株価が戻ったら自社株買いを継続する必要性はなくなりますので、この場合にまで自社株買いをする合理的な理由はありません。
様々な状況を考慮して自社株買いの実施に関する会社側の広い裁量を確保しておくためには、今回のような文言にする必要があります。
ただ一方で、たとえ株価が現在の水準より下落しても、自社株買いをいつするか、あるいは中止する権限をJNJは留保していますので、株価の下落が続いても一向に自社株買いがなされないという状況が発生し、結局は自社株買いをしますという声明文発表の掛け声だけで終わって中身が伴わない可能性も(それが非常に低いにしても)存在することは認識しておいたほうが良いように思います。
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