夏季休暇のシーズンです。お盆に夏季休暇をとった人も多いと思いますが、お盆は休む人が多くて仕事が止まって暇なので、僕はお盆を回避して夏季休暇を取りました。
夏季休暇の2日前から、仕事を増やしたくないので社内コミュニケーターをオフにして居留守モードにします。
そしていつもより朝少し早く出社して、溜まっている仕事を粛々と片付けていきます。面倒くさそうなのは見ないふりしてとりあえず放置です。
朝早く出社して仕事していたら上司の1人(僕は上司が複数人いるのです・・)が出社してきて、朝の静かなオフィスにしばらく2人きりでした。
なんとなく決まずいので、どちらともなく会話をすることになりますが、自然と会話もはずんでいき、上司の夏休みの過ごし方や家族の話などをし、雑談を通じて信頼関係を構築しているかのような良い感覚でした。
気が合わないやつだと思っていたけれど、実は意外といいやつなのかもしれない。そんな風に思い始める自分がいました。
盛り上がる会話に気を良くした上司は、新しい仕事を僕に恵んでくれました。
上司が半年間ずっと放置していた、とあるアングロ・サクソン系企業との契約書のレビュー案件で、50ページほどの英文契約書が渡されました。
ずっと放置していた挙句、どうも最近事業部から催促が来たようで、翌週までに対応しないといけない案件のようです。なんたる丸投げ。
いや、あんたさっき僕は明日から夏季休暇とるって話したじゃん、こんなことだったら朝早く出社なんかしなかったよ。
こんな無理筋な仕事を投げられるためにみんながドラマ見たり青春している間に根暗に自習室にこもって勉強して東大に行ったわけじゃない。
無言の抵抗を示すため、担当が自分になったことを表明する事業部へのメールはできるだけ遅く送りました。
帰りぎわにまた少しこの無茶ぶり上司と雑談し、「よい夏休みを」と言われたそばから「○○君○○社の契約書持って帰るんでしょ?」「まだ他の英語案件溜まってるからあげるよ」と言われましたので、「いえ、放置して帰ります!」と爽やかに回答したのです。
このパワハラくそやろう、夏季休暇中に労働したら労基法違反だぞ週刊誌にチクって訴えるぞ。その年になってコンプラ研修受けたことないのかよ。
むしゃくしゃしつつ仕事を放棄して会社の雑誌を読みながら残業代を稼ぎつつ、そうは言っても基本的には仕事に誠実に向き合いたいと思っている彼のことなので、事業部には最大限努力はするもののの希望期限どおりに返せるかは分からないといったん牽制メールを投げます。
終わるわけはないと思いつつもひとまずぶ厚い50ページの英文契約書をペラペラと数ページほど読み進めます。
その格調高い英文には敬意さえ感じます。やんごとなき美術品を眺めているような気分になります。
この時点でこの企業と対等の条件で契約はできないであろうことを悟ります。
そして、厳然たる事実に到達します。ムリぽ。
彼はしばしの間熟考したのち、どう考えても読み終わるはずのない分厚い英文契約書を裏返しにして、積み残しタスクの契約書の山の1番上に綺麗に置き、誰もいない静かな深夜のオフィスで深いため息を一つ吐きました。
そして、かつて愛した親友の妻を奪うことを決意した長井代助の如く、「宜しい」と言い、また「よかろう」と言い、本案件はひとまず自分が夏季休暇中はなかったことにすべく帰路についたのでありました。
なつやすみはやっぱりみぢかい。