ターミネーター・ニューフェイトの評価・感想/ ターミネーター2を超える映画はもう現れない

ターミネーターシリーズの最新作映画「ターミネーター・ニューフェイト」を劇場で見てきたので、評価・感想を書きなぐっていきます。

資本主義社会の宿命とはいえ、T2を超えることはできないとわかっているのに、商業的な理由や創作欲の理由から、同一ブランドを使用した作品が次々と創られ予想通りに次々に討ち死して、次作が出るたびにブランド価値を下げていきます。頼むからキャメロン監督復帰してくれ。そう思っていたファンは多いでしょう。

残念ながら監督ではありませんでしが、ジェームズ・キャメロンの製作総指揮としての製作復帰、サラ・コナー役のリンダ・ハミルトンのT2以来の出演と久々のシュワちゃんのT800役に、今作の公開を待ち望んでいたファンも多いでしょう。早速レイトショーで観てきましたのでレビューします。

ところどころネタバレ前提の感想を書くと思いますのまだ見ていない人はご注意ください。

はじめに言うと、ターミネーター2が大好きで「T2の正当な続編」である今作を見たいけど駄作だったらどうしようと心配で迷っている人は、見に行く価値はあるというのが僕の意見です。

点数をつけると、100点中80点です。

良い映画だったと思います。ターミネータ−3、4、新起動/ジェニシスと過去の遺産を食いつぶす作品が続いているシリーズですが、T2以降のこれら駄作(と世間からは思われている)とは一線を画する作品になっています。

なかなか言葉にするのは難しいのですが、「キャメロン色」を感じますし、キャメロンが関与していない過去3作とは異なる胸にグッとくるものはありました。

しかしことT2との比較においてどうだったかという観点が入ると、一気に分が悪くなります。

ターミネーターシリーズは、ターミネーター2で最高点に到達してしまったのがそもそものその後のシリーズの不幸の始まりでした。

およそターミネーター2は、有史以来人類が生み出してきたあらゆる芸術形式(小説・戯曲・音楽・映画・紙芝居・ゲーム・絵画・演劇その他すべての形式を含む)のあらゆる芸術作品の中でも選りすぐりのトップレベルに位置する作品です。すべてはこの前提からスタートします。

小説で例えれば、T2は文学史における「罪と罰」・「レ・ミゼラブル」・「赤と黒」のようなもので、映画史において比類なき古典的傑作と位置付けられる作品です。

「罪と罰」を超えるような小説を書けと言われても不可能なように、「T2を超える映画を製作する」という命題自体の克服が不可能なのです。「リーマン予想」の解決に未だ人類が到達できないように。

それは、ドストエフスキーが自分が書いた「罪と罰」を超える小説をその後書けなかったように、T2の監督であったジェームズ・キャメロンがT2を超える作品を創れと言われても創れないんです。

もうこれはしょうがない。芸術作品として最高点に到達している作品を超えろと言われてももう酷です。

今作は、1つのアクション映画としてみれば、かなり出来の良い映画の部類にランクインされます。

キャメロンが監督した「ターミネーター」「ターミネーター2」をオマージュしたようなお決まりシーンを随所に散りばめ過去作品のファンへの心遣いを見せたり、新たな敵となるターミネターのアイデアも陳腐さを招いていないし、要となるアクションシーンもど迫力です。

新キャラも魅力的でいい味出してました。女性が主役のストーリーなのですが、シュワちゃんは完全に脇役でした。これはこれでストーリーとしては良かったので、不満はないです。

ただ、シュワルツェネッガー演じるT800のかっこよさ、敵役ターミネーターの強さ・魅力、敵に追われるスリリングさ、人間ドラマとすべてT2を超えることはできていません。

ターミネーターシリーズの見所の1つといえばターミネーターVSターミネーターのバトルシーンです。

ターミネーター3、4、ジェネシスと敵ターミネーターの戦闘力もインフレ化していますので、これ以上強くなるとT800との戦力差がひらきすぎて見ごたえあるバトルシーンにならなくなるのではという懸念が自分の中でありましたが、この辺りは味方チームを増やしたり、描写を調整したりで良い按分具合であったように思います。やっぱり強いシュワちゃんが見たいですよ。

シリーズが続くとバトルシーンも新鮮さがなくなってお馴染みのパターンになってきます。

T2まではあったT800の絶対的な強さがもはや無くなっていますので、最近はつまらないバトルシーンよりも、「若いシュワちゃんのCG使ったT800が登場するシーンが1番胸熱」という状況でしたが、これはなんとか克服できていたといってよいでしょう。

が、今作見て痛感しました。もうね、T2のT1000の魅力を超える敵ターミネーターを出すのはどうがんばっても無理ですわ。唐沢くん主演の「白い巨塔」を超える医療ドラマをもう製作することが不可能なのと一緒。

CG技術がどれだけ進歩して絵が綺麗になって派手になっても、T2のゲームセンターの廊下でバラの花からライフルを出したT800とジョン・コナーを追うT1000が初めて顔を合わせた「最強対最強」の対峙でドキドキして胸躍らせたシーンとか、T1であれほど強かったT800が仲間にいて守ってくれて安心していいはずなのに、T1000からの追跡が怖くてたまらなくてハラハラドキドキが止まらなかったりとか、心底感情を揺さぶるT2の各場面には及びません。

T2のような少年時代に見た男の子の心に焼き付けられ30過ぎても40過ぎても我が青春の映画として心に刻まれるかというと、残念ながらその域には至りません。

今作でのジョン・コナーの扱いには賛否あると思います。

エイリアン2(キャメロン監督、大傑作)を見た後にエイリアン3(別の監督)の冒頭を見て味わうのに似た感情を覚えますが、現代を舞台にしてジョン・コナーとサラ・コナーとシュワちゃん演じるT800では、T2の劣化コピー以外の何物にもならないのは明白ですので、僕は肯定的に見ています。

原題だと副題は「New fate」ではなく「Dark fate」(直訳すると「暗い運命」)のようです。こういった映画製作者の意図を無視したマーケティング目的での副題の改悪行為も辞めてほしいです。

なお最後に、ラストシーンは良かったです。こういうストレートなやつでいいんです。グッときました。

もう一度言いますが、T2との比較評価では比較相手が悪すぎます。1つの映画作品として見れば丁寧に創られた作品で満足できる出来栄えになっていると評価しますので、劇場で見る価値のある作品です。

興行成績が北米市場で爆死状態のようで、シリーズファンの1人としてはとても残念です。酷評されている3、4、ジェニシス、そして本作とも、僕自身は楽しめていますので、ぜひともこれで打ち切りとならないで次作を熱望します。

いい加減T2やT800の呪縛からとき放たれて、現代を舞台にするともう同じパターンの繰り返しで限界なので、T4路線のように未来のジョン・コナーとスカイネットの戦いを描いた熱い作品が見たいです。