儲けすぎることが企業のリスクとなる〜アップルのApp Storeへの消費者訴訟を受けて

日本ではよく出る杭は打たれるといいますが、結局欧米の企業も同じことじゃないかと思うことがあります。

特に独占禁止法を巡る当局の対応や訴訟をめぐってです。

独占禁止法違反というのはつまりある企業が独占的に利益を儲けすぎて消費者が損をしている状況を是正しようということなので、出る杭ほど打たれます。

先日、アメリカの最高裁判所が、消費者団体によるApp Storeが独占禁止法違反とする訴訟の継続を認める判断を示し、アップルのApp Storeの手数料ビジネスの収益性悪化への懸念によりアップルの株価が下落しました。

App Storeとは、iPhoneでアプリをダウンロードする時に開くアプリを購入しダウンロードするアップルのサービスです。

App Storeは、iPhoneユーザーが課金する時に30%を手数料として徴収します。要は、iPhoneでゲームをダウンロードし課金すると、その課金分の30%がアップルに入り、残りの70%がゲーム会社に入るというわけです。

自分はアプリを開発しなくても、iPhoneがありユーザーがアプリに課金する限り寝てても30%の手数料がアップルの財布に入ってきます。美味しいビジネスですね。

今回アメリカの消費者団体が、この30%の手数料を徴収していることを理由の1つとしてアップルを独占禁止法違反で訴えているのです。

もし独禁法違反が認められると、30%の手数料を取ることが違法となってしまうので、手数料をもっと安くすることになることと思われ、アップルの収益性が悪化します。

中国市場でのiPhoneの販売が失速しておりiPhoneの売上が減少する中、アプリ手数料収入は伸長していたため、アップルとしては水をさされた感じです。

実際にスマホのアプリ市場はアップルとグーグルの独占市場なので、アップルが訴えられるならグーグルも同じ論理が妥当しそうですが、ひとまずアップルだけ訴えられているようです。

アメリカの最高裁は、まだアップルの独禁法違反を認めたわけではありません。あくまでも、消費者団体にアップルを訴える資格があると認めだけです。小難しい用語を使うと、消費者団体に「当事者適格がある」ということになります。

訴訟というのは、誰でも提起できるものではありません。

例えば、A君は、とても仲の良い親友のB君がいるとして、親友の奥さんであるCさんが浮気したとします。親友であるB君を傷つけた奥さんのCさんが許せなくて、B君はCさんとのやり直しを希望しているものの、正義感の強いA君はそれでは気が済まなくて、A君がB君の代わりとなってCさんに慰謝料請求訴訟を提起できるかといえば、当然できません。

この場合に慰謝料を請求できるのは夫であるB君であり、無関係のA君はCさんを訴えることができませんので、訴訟の当事者となることはできません。このときA君はCさんを訴える「当事者適格」がありません。

アメリカのアップルを巡る裁判は、上記のように、消費者団体がアップルを訴える当事者となることができるかという点を争点としてまず争われており、現段階ではそれが認められたという段階です。そのため、独禁法違反かどうかはこれから審理が始めるものと思われます。

もし仮に消費者団体の主張が認められれば、当然世界中で同じような裁判が展開されるでしょうから、アップルにしてみれば裁判官を買収してでも合法にしたいでしょうね。

しかし消費者側のこの論理が通ってしまうと、数社の寡占市場で手数料ビジネスを展開している利益率の高い企業なんかは、常に独禁法違反を理由とする同様の訴訟を提訴されるリスクや、実際に独禁法違反と裁判所に判断されるリスクを負っていることとなります。

例えばクレジットカード市場に君臨する企業もそのうち独禁法違反の格好の的になってしまうリスクがあるんじゃないでしょうか。VISAやマスターカードは寡占市場の手数料ビジネスでアップル以上の高利益率でボッタクリのようにボロ儲け状態です。

もちろん、今回の消費者は30%という「高額な手数料」を問題にしているので、わずか数パーセントの手数料しか徴収しないクレジットカードの手数料とは事情が異なると考えるのが自然ですし、クレジットカードの手数料は消費者ではなく加盟店の店舗が負担しているので、この点も価格が消費者に転嫁されるアプリ市場とは異なります。

ただ、こういうのって論理ではなくて割と結論ありきで議論がスタートしてしまう展開もあるように思うので、裁判かどうかは別にしてあんまり儲けすぎていてもいつかそれを是正する圧力がかかってくる危険性はあります。

日本でいうと菅官房大臣による儲けすぎの携帯会社への値下げ圧力による通信会社の株価暴落は記憶に新しいですし、儲けすぎなのかどうかは知りませんがアメリカでも薬価引き下げ圧力による製薬会社の株価への悪影響や、民主党議員に「強欲はこれで終わりだ」と名指しで指名され保険会社の株価が急落するケースもありました(ユナイテッドヘルスです)。

なんというか、寡占市場のプレイヤーで利益率が高くて儲けすぎているということも企業にとっては狙い撃ちされるリスクだなと思わされます。

そういう属性の企業って、投資家にとっては通常は涎がでるくらい投資したい企業候補になるのですがね。

目立つと標的にされちゃうので、目立たない市場で地味に利益率が高くて儲けている企業がいいですね。

そういう意味では害虫駆除最大手のローリンズとかは理想なんでしょうね。PER高すぎ問題は別にありますが。

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