サブプライムローンは貧困ビジネス

もう10年くらい前に発売されてベストセラーになった岩波新書から出版されている新書「ルポ 貧困大国アメリカ」(堤未果著)という本を今更感がありますが読んでいます。

アメリカの資本主義の暴走の結果、格差が広がり中間層が疲弊し、貧困層が再生産されているというアメリカ社会の闇を描いた内容となっています。具体的な例としては、これまで非民営化で運営されていた機関が民営化された結果、国民の命や公共の福祉よりも利潤や効率を重んじる運営がなされるようになり、結果としてハリケーンカトリーナが発生した際に当局が市民を見殺しにしたという例や、貧困層が安くて調理器具もいらないファーストフードばかり食べて肥満化が止まらないという例、教育ローンで貧困化する若者の例、日本のように国民皆保険制度がなく、医療費の高騰で中間層も破産し治療する側の医者も疲弊しているという例、イラク戦争の兵隊需要により、貧困層が軍事当局からターゲットにされ現地に派遣されているという例などを挙げています。

内容はとても読みやすく、アメリカ社会の負の一部を知ることができるのでお薦めできます。特に自分のようにアメリカ株に投資している者は一気に読めてしまいます。

この本を読んで、正義感の強い人は広がる格差に怒りを感じてこれを是正し、貧困層を食い物にしている資本主義を修正しなければならないという感想を持つのでしょうが、投資をしている自分としては全く異なる感想を持ちました。

それは、この弱肉強食の世界で、搾取される側ではなく搾取する側に付かないといけないということです。現実的に搾取する側に付くことが1番確実で、結果それが自分や家族を守ることにもつながるのでしょう。自分は国家機関に入って出世したり、国会議員に立候補して当選し権力者として世の中を是正する力もなければ、映画のヒーローみたいにこれまでの権力者が創り上げた既存のシステムを変更する力も気力もありません。

搾取する側に付くとは、即ち貧困層から搾取している(と見做されている)多国籍企業の株主になって株主として会社の利益を享受するということです。

本書の中では直接的かつ露骨な記載で多国籍企業の名称までは挙げていませんが、ファーストフードビジネスに関わるマクドナルド・コカコーラ・ペプシコ、ファイザー、メルク等大手製薬企業、軍事企業のロッキードマーチンやレイセオンなどといったアメリカ株投資をしている人なら誰もが知っている代表的な企業の株を持つのが、自分にできる自己防衛手段だなと再認識させられます。

本書の中で、サブプライムローンとは貧困層を狙った貧困ビジネスだという頭にすっきり入る記述があり、これまでサブプライムローンについておぼろげな知識しかなかった自分の知識がいくらか整理できたので、紹介したいと思います。「マネーショート」を見るよりも、本書の冒頭を読んだ方が金融業者ではなく消費者から見たサブプライムローンの実態をイメージしやすいです。

サブプライムローンとは、社会的な信用が低い所得の低い人を対象にした住宅ローンであり、アメリカ金融監督当局の通達によると、以下の4つの項目のうちいずれかに該当する者が対象になります。

  1. 過去12か月以内に30日遅滞を2回以上、又は過去24か月以内に60日延滞を1回以上している
  2. 過去24か月以内に抵当権の実行と債務免除をされている
  3. 過去5年以内に破産宣告を受けている
  4. 返済負担額が収入の50%以上になる

今の日本の銀行だったら絶対お金を貸してくれないような属性の人を対象にしています。貸す金融機関もこれらの属性の人に貸すのは返済できなくなるリスクが高く怖いと思うのですが、これを可能にしたのが当時の米国の住宅ブームです。信用度の低い人にお金を貸す場合は担保となる物の価値が大切になりますが、当時は担保となる住宅価格が上昇を続けているという背景がありました。4000万で買った住宅が1年後に5000万の価値がつけば、担保価値も値上がりするし仮に返済不能になれば値上がりした住宅を売ればよい、価格が上昇した住宅を担保に新しいローンをすることもできるという、住宅価格の上昇が続いている限りは何もかもうまく回るシステムです。しかしそんなわけはなくその後の結果は皆さんご存知の通りのリーマンショックです。

「サブプライム(sub prime)」とは、優良顧客(prime)より下(sub)というそのままの意味です。経済的な信用がない人を対象にした住宅ローンですね。

一般の住宅ローンと比較して審査が甘く、通常の住宅ローンの審査には通らない人向けのもので、金利の利率は高いという特徴があります。最初の2,3年間は金利が相対的に低い(6%ほどのようです)のですが、その後は10~15%まで跳ね上がります。

今の日本の感覚でいうと、金利10%とか高すぎて泣きますね。アメリカ株のS&P500種の統計上の年間上昇率7%よりも上の金利です。

日本でいうと、通常の住宅ローンに通らない人向けの住宅ローンというとフラット35が思い浮かびますが、金利は固定でしかも低く、総返済額もメガバンクの固定金利ローンよりも割安にできますのでそれ自体が消費者にとって優れた商品になっています。

それと比較すると、アメリカのサブプライムローンは劣悪な商品だなと後知恵的に言えるのですが、それでもこの住宅ローンを使って家を購入していたアメリカ人がわんさかいたという現実があります。

サブプライムローンは、当時のアメリカの貧困ラインギリギリの年収でも、給与明細の提出さえ不要で、すぐに50万ドル(5500万円)の融資が可能という審査もないザルっぷりでした。

融資業者は、アメリカの住宅ブームにかげりが見えてくると、不法移民、低所得者、破産履歴がある者、クレジットカードを持てない者といった経済的な信用性のない経済的な属性の良くない者を顧客ターゲットとしてサブプライムローンを売りつけます。アメリカの中産階級の市場が飽和すると、経済的な信用度のない者に住宅ローン市場を開拓していったのです。ヒスパニック系の中には英語のわからない者もおり、全く内容の読めない英文契約書に担当者のいうままにサインしてしまう者もいたようです。

アメリカ連邦政府の2005年のデータによると、アフリカ系アメリカ人の55%、ヒスパニック系の46%がサブプライムローンを組んでいる一方で、白人は17%になっていますので、データからも非白人の貧困層がメインターゲットになっていることがわかります。

僕が怖いと思ったのは、クレジットカードを作れず、銀行口座もないような属性の人たちの個人情報が融資業者に回っていて、金融業者から積極的にこれらの人たちに勧誘のアプローチを仕掛けていたという事実です。

いつの時代のどの国でもそうですが、金融知識のない低所得者は、営業員の「住宅価格はこれからも上がるから大丈夫です」という営業に押されて、マイホームを手にできるという夢の現実化に心躍らせ内容の理解できない契約書にサインしてしまうのです。200万の年収しかない人が7000万のローンを負ってしまうという考えられないケースが起きます。結果は、住宅価格の値下がりとともに住宅ローンを支払えなくなり家の差し押さえを受け夢のマイホームを失い、多額の住宅ローンだけが負債として残り住宅を買う前よりも更なる貧困層に陥るという救いのない報われない結末です。



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