世の中のアニメ映画やCG映画の声優、洋画の吹き替え声優は、プロの声優さんではなく声優業には素人な俳優、女優、旬なお笑い芸人といった芸能人が起用されるケースが大半です。有名な映画になればなるほどほぼ100%有名芸能人を声優に起用しています。
スタジオジブリ作品もラピュタやナウシカなどは田中真弓さんなどのプロ声優を起用していましたが、作品の年が新しくなればなるほど芸能人を主役キャラクターの声優に充てています。
ドラえもん・クレヨンしんちゃん・名探偵コナン・プリキュアといった子ども向けアニメで毎年ヒットを飛ばしている作品も映画オリジナルキャラは毎回芸能人・お笑い芸人が声優をやって五月蠅いくらい作品PRをしています。
ほとんどの人は、下手くそな調子に乗っているタレントを声優に使用するよりも、ちゃんと訓練を受けているプロの声優さんを起用して欲しいと思っていることでしょう。当たり前です。
映画が好きな人ほどそういう志向かと思います。下手くそな声優によって、せっかくの良作である作品が冒涜された気分になる映画ファンもいるでしょう。
今回の記事では、一部映画ファンからは反感を買うことが確実である「芸能人の声優起用」について、なぜこの慣習がなくならないのか、なぜプロを抑えてまで下手な芸能人を声優にしなければならないのか、業界事業を少し書いていこうと思います。
僕自身は現場の最前線でコンテンツ制作に従事している人間ではありませんが、直接業界のプロデューサーから聞いた話です。
自分自身コンテンツを制作する業界に近い業界で働いているので近いところで映像制作の仕事を見ていますが、声優の音声を収録する工程は、基本的には一連の制作工程の後ろのほうです。
映像コンテンツを創作するには、まず予算を決め、人を集め、完成予定日を決め、目標収益を決めるといった初期の計画を立てた後に、コンテンツのストーリーやシナリオのプロットを考え、キャラクターの設定や舞台となる世界観構成を整え具体的なシナリオに落としていき、アニメのコンセプトアートや絵コンテを作成しそれを(CG)アニメーション化していくといった流れになりますが、当然ながら膨大な時間と金と人手のかかる作業が必要となります。
声優さんが読む台詞の台本ももちろん作成しないといけません。
3年以上の月日をかけて10億を優に超える単位の金額を投資し、内容や予算修正、スケジュール修正など日常的なトラブルを乗り越えてようやく完成が見えてきたときに、声優の音声収録の作業をします。
下請の会社も含めて現場で映像をつくっている人間がいかにブラックで薄給な環境で仕事をしているのか知っているので、文字通り血と汗を注ぎ込んだ作品の最後の最後の1番ラク(プロ声優さんではなく芸能人による音声収録なので、「ラク」と表現しています)な作業が音声収録なわけです。
数日もあれば台詞の収録は終わります。
そんな1番最後の数日間、お金をもらってお客様扱いされて収録作業に臨んだ芸能人が、作品のオープニングやエンディング等で流れるクレジットで1番目立つところに名前が出る慣習に僕自身はとても違和感を感じています。
もっと作品制作をするにあたって苦労した人間がたくさんいるのに、なぜ上辺だけの仕事しかしていない芸能人声優が1番美味しいところに名前が載るのか、作品への貢献度を考えるとちゃんちゃらおかしいわけです。
しかも、もちろん声優をやらせてもプロ声優とそん色ない実力の人もいますが、大半は聞くに堪えない素人レベルです。
そういう人に限って、映画のパンフレットなどに「子どもの頃から大好きだった○○の声優のオファーがあったときは、とても嬉しかった」と、下手な声で当の自分が昔から大好きだった作品を冒涜するようなお粗末な仕事しかできていないことに無自覚な自己中コメントを恥じらいもなく残していたりします。
単純に作品としての魅力を高めるにはプロの声優さんを起用すべきなのは明白なのに、なぜ聞くに堪えないと分かっている素人の芸能人を声優として起用しなければならないのか。
結論をいえば、映画作品の宣伝広告のためです。芸能人にはプロモーションの役割だけを期待されています。
芸能人を使っていればテレビや雑誌などのメディアが勝手に飛びつくので、世間への作品の広告宣伝を期待しているんです。
莫大なマーケティング費用をかけるよりも、芸能人にお金を使った方が宣伝広告の効率がいいんです。
やっぱりかということでしょうが、もう少し詳しく述べていきます。
映画などの映像コンテンツの作品を創るには、何回も書きますが莫大な資金と時間がかかります。作品を創ったはいいが売れなくて赤字になったでは話にならないのです。作品が売れるかどうかが勝負なので、売れなければプロデューサーは社内で(例えば)10億円の赤字を出した男と陰口をたたかれて居場所がなくなります。誰も失敗なんかしたくありません。
(CG)アニメ映画が完成すると、作品の発表会をまずメディアのみを対象にして開きます。メディアから世間に報道してもらうことをもちろん期待してです。
会社の広報部門から、各メディア向けに発表会の概要と出席依頼の手紙やメールを送ります。この時、メディアが作品の発表会に出席するかどうかを決める基準は1つだけなんです。
それは、その発表会に芸能人が来るかどうか。悲しいですが本当にこれだけです。実際に広報の担当者に聞いたことがあります。
作品自体に興味があるかは二の次です。芸能人が来れば最低限芸能人をネタにしたニュースや記事がつくれますから。
よくヤフーニュースやお昼の情報番組で、ある芸能人が6か月ぶりに公の場に姿を現したとか言うことがありますが、あれは何も芸能人が自発的に自分から記者会見とかをしているわけじゃないです。
ほぼ間違いなく企業の商品・サービスの発表会の場に芸能人が広告塔として呼ばれて出席し、作品PRが終わった後の最後に恋愛ネタの質問とかをメディアから振られているんです。必ず芸能人の背後にはPR元の商品・サービスや企業のロゴが映っているはずです。
例えば、飲料製品でいうとサントリーやキリンが新たな飲料製品のメディア向けの商品発表会を開き、芸能人を読んで商品PRをしますが、そういうイベントのことです。
なので、芸能人がこないイベントには、悲しいかなメディアが取材に来てくれないので、作品のPRが全くできません。そのため、無名のオリジナルの映画ほど、メディアの集客のために話題作りとして主役キャラに芸能人を声優に起用し、作品のPRを芸能人にしてもらう必要があるんです。そうしないとどんなに良い作品を創ったとしても世間に売ることができません。
そうすることで、芸能人につられてのこのことやってきたあほなメディアが、芸能人ネタに付随して作品についての記事を書いたり放送してくれることで、作品を世間に認知させるためのマーケティング活動となるのです。
テレビCMを売ったり各種メディア媒体で作品を取り上げてくれるよう販促活動をすると当然ながらマーケティング費用として莫大な費用が発生しますが、芸能人さえ声優に起用しておけば、芸能人大好きなメディアが勝手にヤフーニュースとか消費者の目につくメディア媒体で取り上げてくれるんです。企業にとっては、こんなコスパの良いプロモーションはありません。
こういった、芸能人大好きな対マスメディア対策としての芸能人起用という理由がまずあります。
また、映画だと、映画を作っても映画館で配給しないと作品を売れません。
映画を公開するためにはまず映画を実際に映画館で上映してくれる映画配給会社に映画を営業して売る必要があります。配給会社に映画を買ってもらわないことには、せっさく作品を創っても世間に作品を届けさせることができません。
映画館を経営する映画配給会社も当然商売でやっているので、スターウォーズとかドラえもんとかヒットが自明の映画であればともかく、リスクをとってヒットするかどうかもわからない新規の映画を配給することはしたくありません。赤字になりたくありませんので。
そういった映画の配給会社に映画を売る時に、作品のPRとして作品のシナリオのよさやオリジナリティ、CGのクオリティの高さを説明されても、そんなことわかりませんよね。
1番のはっきりしたPR点は、著名な芸能人が作品に起用されて話題作になりそうだと思わせることができるかどうかです。
配給会社への営業という観点からも、芸能人をつかっているとわかりやすいアピール点になります。
次に、芸能人を起用することで、どこにお金が入るのかを書いていきます。
有名な俳優・女優・お笑い芸人を声優に起用してどこにお金が入っているかですが、もちろん芸能事務所にはお金は入ります。
ただ、大半のケースでは映画制作会社は芸能事務所とは直接契約はしません。広告代理店を媒介します。
有名な芸能人が所属する事務所とのコネクションは、電通や博報堂に代表されるような大手広告代理店が握っていますので、映画制作会社は、大手広告代理店と契約書を交わします。
その契約書の中で、大手広告代理店の義務として、○○芸能事務所に所属する芸能人を声優業務に従事させることになるのです。この座組自体は、芸能人のテレビのCM出演契約と同じです。
この契約書の中に、芸能人を最低○回は大きなイベントで作品のPR活動をさせるといった条件を入れたりすることがあります。
僕は大手広告代理店とのこれらの契約書も業務で見ており、先方から出された舐めた条件を記載した契約書を真っ赤に修正して代理店に返しているので、馴染みはあります。
そういうわけで、芸能人を起用すると芸能事務所だけではなく大手広告代理店にお金が入ります。芸能事務所にお金を渡す前にどれだけ広告代理店が中抜きしているかはわかりませんが、企業から貰うお金と芸能事務所に払うお金の両方の金額を知っているのは間に入って直接両者と契約する大手広告代理店だけですので、当然自分が1番美味しくなるような金額を中抜きしているのだろうなと思っています。
大手広告代理店にとって、お金が稼げる座組なわけです。
芸能人を声優に起用していろいろなイベントに出させて企業からお金がもらえます。
大手広告代理店側からもこういった営業がかかってくることは想像に難くありません。
実際問題として、映画制作会社も、作品のクオリティを落としても芸能人を声優として起用するメリットのほうが大きいと考えているからこそ芸能人を声優としているわけです。
映画制作会社は宣伝広告メリットを享受し、大手広告代理店と芸能事務所は声優起用による金儲けができますので、業界的にはどこも損をしていません。
IPが確立している有名アニメや著名なシリーズな映画だと、そもそも有名芸能人を声優に起用する必要性もないように思うのですが、映画の制作会社や広告代理店は、あほな一般市民は芸能人使っとけばそれに釣られて劇場に足を運んでくれるだろうと思っているし実際そうなっていると思われているわけです。
芸能人声優を採用しても興行収入には全く影響がないと統計的に証明されれば、芸能人を使う風潮も廃れていくと思われますが、そんなことを証明するのは不可能です。
同じ映画で芸能人を声優起用した場合とそうでない場合とで興行収入の比較実験をすることもできないので、わからないんだったら芸能人使っとく方が安全だという志向にならざるを得ません。
消費者側としては、芸能人の声優起用に抗議する方法は芸能人を使ってPR活動もしまくっている映画を劇場で見ずにDVDやブルーレイも借りないことですが、もはや劇場公開するほとんどのアニメ映画・吹き替え洋画の声優に芸能人が使われている情勢なので、見る側の選択肢も乏しいというのが悲しいですが現実です。
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