「テンプルトン卿の流儀-伝説的バーゲンハンターの市場攻略戦略」(著者:ローレン・C・テンプルトン、スコット・フィリップス、訳者:鈴木敏昭、発行:パンローリング社)の書評です。
だいぶ前に購入した本で、久しぶりに読み返しました。本棚のよく見える箇所に配置して都度読み返したいと思える良書です。
いわゆる「逆張り」による割安株への投資で富を築いたジョン・M・テンプルトンの投資経歴や方法について書かれている本です。
世に溢れる数多くのバフェット本のように、本書はテンプルトン卿本人の著作ではありません。
テンプルトン卿の投資を間近に見ていたテンプルトン卿の近親者が、卿についてまとめた本となります。
テンプルトン卿って誰?有名なの?と思う人も多いと思いますが、以下の格言を生み出した投資家本人といえば、皆一気にこの本を読む気になるのではないでしょうか。
強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観とともに成熟し、陶酔のなかで消えゆく。悲観の極みは最高の買い時であり、楽観の極みは最高の売り時である。
ジョン・M・テンプルトン
最も有名な相場の格言ですね。
本書のまえがきにいきなりこの格言が登場します。しびれて赤色マーカー引いてしまいます。
安く買って高く売る、最も単純な事柄なのに最も難しい行為であることを日々実感します。そんなことできたことがありません。
テンプルトン卿は、最も優れた「バーゲンハンター」であり、本質的価値と比べて安い株式に投資する方法で莫大な富を築いてきました。
割安株銘柄を探すバーゲンハンターは、株価が本質的価値よりも下落している銘柄を探し、企業が短期的な危機(しかし市場は永続的なものであるかのように誤解している)によって株価が急落している銘柄を探し、市場の見通しが最悪な銘柄を探します。
この言葉を見ると、株価が上昇している時にアルトリアやフリップモリスといったたばこ株に投資していたのに、将来への不安で配当利回りが7%を超えるような下落っぷりを見せている現在はたばこ株に見向きもしなくなっている人はセンスがなくて割安株投資なんて出来そうもないように思えます(自分のことか)。
投資対象はアメリカ市場だけではなく、日本、韓国、中国と幅広く、その時に最も割安だと判断した市場に資金を投入しています。アメリカ一国だけではなく、国際的に分散されてポートフォリオの方がリターンは優れたものになるという立場を取っています。
株式投資をしている人は、順張りよりも逆張りしている人が多いと思うので(さらにいえば逆張りして結果損失を拡大させる人が多数派でしょう。自分もそうです)、中身は非常に読みやすいです。
本の内容には、以下のような考えが紹介されます。
- 株式と企業は別物。株価が企業価値から乖離した動きをすることはよくある
- 企業価値と株価のズレから生じる最大の投資機会は、悲観論が溢れている時
- 株を購入する前段階として、事業の内容や過去の業績推移、競合他社の状況などを完璧に理解することは不可欠
- 見通しが有望な銘柄ではなく、見通しが1番暗い銘柄はどれかと聞かなければならない
- バーゲンハンターには忍耐力が欠かせない
- 銘柄の評価の出発点となる指標はPER。企業の長期的な収益見通しを基準としてPERが低い銘柄は成功の確率を高める
- 多数意見よりも数字を重視する
- 不景気になっても債務を背負わない、債務負担のない企業を好む
最近は米中貿易摩擦による緊張がまた緩和され、市場は株高の様相を呈していますが、テンプル卿の立場からいえば、市場が楽観に傾きかけ株が買われているタイミングで群衆に追随して投資するのは、愚者のすることなのだろうと思われます。
バーゲンハンティングの核心は、「何物にもひるまない逆張り投資家というより不人気銘柄の賢い買い手になること」(本書P52)です。
もちろん、感覚だけで成功できるほど投資は甘くありません。
本書には、実際にテンプルトン卿が用いた投資の基準というか、テクニカルな技法も多少は書いてありますが、それを読んで明日からすぐに自分で使って金持ちになれるかといえば、残念ながらそうではありません。
割安株投資で成功するには近道はありません。
1つでも多く年次報告書を読むこと、1社でも多く競合企業でインタビューすること(これは個人投資家には無理なので、競合会社のIR資料をよく読めということになるでしょう)、1つでも多く新聞記事を読むことといった地道な努力の継続が投資の成功の成否を分けることを力説しています。
耳が痛いですね。楽して投資でお金持ちにはなれませんよと言っているわけです。
ほとんどの人はそういった不断の努力を惜しんで何もせずに感覚だけで投資しますので、やればやるだけ差は開いていくのでしょう。と努力できていない人間が言ってみます。
偉大な投資家になれるかどうかは、銘柄選択の天才性ではなく、他人が買わないものを買おうとする胆力であると考えると、凡人にも少し救いがあるような感じがします。