【映画感想】「アジョシ」 レオンに対抗できる唯一のレオン系の映画

(画像はアマゾンHPより)

2010年に韓国で公開され、現地で大ヒットしたウォン・ビン主演のアクション娯楽大作映画「アジョシ」の感想・評価を書いていきます。

本作品は、自己の特殊な経歴が引き起こした悲しき過去ゆえに愛を喪失し世間から隔絶し孤独に生きる男が再び愛ゆえに一人の少女を救うために立ち上がり単騎にて強大な敵に立ち向かっていくという、男にはたまらない設定の映画です。

そして、このような男の鑑賞欲を刺激して止まないからこそ古今東西同種内容の映画は量産されており、本ジャンルをこの類の映画の傑作「レオン」の名を借りて「レオン系の映画」と呼称するならば、レオン系の映画の中で唯一本家レオンに匹敵し得る映画です

なお本作品はレオンとは異質の映画であるとの解釈ももちろん可能です。

レオンでは、マチルダからレオンへの恋を基点とするコメディカルなシーンも交えた愛情のやり取りが描写されますが、アジョシでは2人のやり取りの描写は希薄です。ひたすらシリアスなシーンの連続で、主人公から少女への愛情のベクトルも、「保護者」としての愛情になります。

僕は少年期にレオンを見たのでレオンがこれ系の映画の本家本丸ですが、現代の中高生男子がレオンより先に本作品を見ると、本作品がレオンを差し置いてこれ系映画の人生の1作となる潜在性を十二分に秘めていると思います。

ラストシーンが切なく込み上げるものがありいいのですが、それ以上に、終局クライマックスシーンのファイナルバトルが本当に素晴らしいです。

何度も繰り返して見てしまうバトルシーンとは、本映画の最終バトルシーンのためにある言葉です。

僕は本作品を4回見ているのですが、3回目からはラストシーンではなくファイナルバトルのシーンで感極まるようになりました。

ウォン・ビンが単騎戦っているシーンを見ているだけで目から汗が出るのです。人間は、自己の感情が頭の中で整理できなくなると涙を流すといますので、なぜ自分が泣いているかを正確に言語化するのは原初的不可能性を伴う作業なのですが、それを承知で言語化するならば、男としての憧憬の極致です。

誰しもこの映画の主人公のように、圧倒的な力を持ちたった一人の誰かを守るために自己を犠牲にして立ち向かっていきたいと思うものですが(未だ中二病から脱却能わざしり自分だけかもしれません)当然現実世界ではそんな場面は通常起こりえませんし、起こったとしても自分にそんな力があるはずもありません。

無論映画の中の話ですが、そんな矮小な自分が潜在的に持つかすかな願望が完璧な形で画面に展開されます。

この上ない極上のカタルシスの表出です。漏らすほど濡れるほどたまらなくかっこいいのです。

哀しみを背負った一人の男がその瞬間にすべてを賭して非情に戦うのに相応しい低温かつ重厚な音楽と巧みなカメラワークも合わさって、それくらいファイナルバトルは並外れた出来栄えです。

本作品のストーリーは、基本的に教科書に忠実な展開です。

敵を撃破していくシーンも、存在感を発揮しそうな敵役の出番が少なくて最後にちょっと出てあっけなく倒されるということもありません。

ちゃんと敵を倒す順番も守って、小モノ⇒中モノ⇒大モノとストーリーの段階を踏んで達成しますので、安心感があります。

ある複雑なシーンを巡り鑑賞後に解釈が分かれるといったシーンもありません。

基本的に敵側の良心を感じる描写がない分かりやすい勧善懲悪ものなので、問題なく主人公側に感情移入してストーリーに没頭することができます。

敵役こうあるべしという形で敵のボス役もいい味を出していますが、僕が本作品で特に優れていると思う点は、主人公のライバルキャラの立ち位置となる人物の描写の仕方です。

秀逸ここに極まります。

本作品では、過去の特殊な経歴から比類なき戦闘能力を持つウォン・ビンに唯一単独で対抗しうる戦闘力を持つライバルポジションの人物が敵組織に登場します。

これがまた憎いくらい本当にかっこいいのです。

このキャラによって、映画の完成度が格段に高められています。

この人物の描写の仕方も痒い所に寸分違わず手が届いているというか、巧いなあと思わず唸りが出ます。

単純に格別の戦闘能力を持つ敵役という描写に収まらず、ウォン・ビンが救おうとしている捕らわれた少女とのかすかな感情の交流を描くのです。血が通いし人物として仕立て上げているのです。

これも、ライバルキャラに全面的に感情移入してしまうような過剰なレベルではなく、かといって過小すぎない、絶妙な匙加減です。

さらに言えば、ライバルとの最終局面対決に至るまでの過程がまた卓越です。

ターミネーター然り歴代のゴジラシリーズ然りガメラシリーズ然り、およそライバル同士の個が個と対決するバトルものは、ストーリー前半に展開される平日昼間のファーストバトルとストーリー後半に展開される土曜日夜のセカンド(ファイナル)バトルと相場が決まっています(曜日と日付は気分的な感覚です)。

本作品は、それに「エピソードゼロ」としての「ファーストルック」をプラスアルファして、ファーストバトルに時間的に先行する場面で、強者と強者の間でしかわからないやり取りにより互いが互いの実力を認識するという巧みな場面があります。

この「ファーストルック」⇒「ファーストバトル」⇒「ファイナルバトル」の一連の流れが、凡そバトルもの映画 の図式の模範であり完結型を提供しています。

尽く自分の琴線に触れる要素が詰まった映画です。

いわゆる韓流人気俳優の娯楽もの映画はちょっとと敬遠してしまう人にも、ぜひ見て欲しい映画です。そういったレベルを超越した普遍性のある映画だと思います。

このジャンルの映画で本作品以上の日本映画を自分が見た範囲では僕は思いつきません。

100点中92点です。

関連記事

カメラを止めるな!

ビューティー・インサイド

パーフェクト・センス

ラ・ラ・ランド

GODZILLA 決戦機動増殖都市



2 件のコメント

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です